コラム
文化芸術分野におけるハラスメント問題への対応
1.深刻化しやすい環境
文化芸術界で性暴力やハラスメントの告発が相次いでいます。深刻なケースが多く、問題の大きさと根深さを感じます。
ハラスメントとは、他者に対する発言・行動等が、本人の意図とは関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えることをいい、種類は様々ありますが、深刻化すると生命身体にかかわる重大事案が生じます。深刻化する環境としては、①力の差が大きい、②同質的集団で傍観者が多い(仲裁者がいない)、③相談できる環境が無いなどが挙げられます。
雇用の分野では、セクハラについては2007年に、マタハラ・ケアハラ等については2017年に、パワハラについては2020年(中小企業は2022年)に、それぞれ雇用主に防止措置を講ずることが義務付けられ、方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、相談者等のプライバシー保護等が求められるようになりました。
一方、文化芸術界は、プロジェクトごとにメンバーや現場が変わり、雇用以外の形態(フリーランス)で働く人が多いことから、こうした対策が進まずにきました。さらに業界の特性として、起用する側・見出す側と起用される側・見出される側との間に力の差が生じやすく、一部の者に権力が集中する構造や業界の閉鎖性、ジェンダー・アンバランスが指摘されており、ハラスメントが深刻化しやすい条件がそろってしまっていました。
2.是正に向けた動き
なかでも被害を受けやすいのは若い俳優や芸術家です。深刻なハラスメントを生み出しかねない環境は、我が国の文化芸術の発展のためにも、直ちに是正が必要です。現在、様々な動きがありますので、いくつかご紹介します。
(1) 文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(文化庁)
2022年7月に公表された上記ガイドライン(こちらの解説もご参考ください)の中で、「取引の適正化の促進等の観点から契約において明確にすべき事項等」にハラスメントが盛り込まれ、「(発注者)は、本業務の内容等を勘案して、(スタッフ)がその生命、身体等の安全を確保しつつ本業務を履行することができるよう、事故やハラスメントの防止等必要な配慮をするものとする。」とのひな型例が示されました。
実効性ある運用が重要となりますが、例えば、性的な撮影シーンで俳優を守るインティマシー・コーディネーターの起用が我が国でも始まっており、今後の普及が期待されます。
(2) フリーランス・事業者間取引適正化等法
本年4月28日に可決成立し、5月12日に公布された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法。いわゆるフリーランス新法)で、発注事業者で従業員を使用している場合は、フリーランスに対してハラスメント防止措置を講じることが義務付けられました。同法の施行日は公布から1年6ヶ月以内とされており、講すべき措置の内容等は追って指針により定められることになっています。一定の法的な手当てがなされたことは大きく、今後対策が進むことが期待されます。
(3) フリーランス・トラブル110番
フリーランス・個人事業主の方が、契約上、仕事上のトラブルについて弁護士に無料で相談できる相談窓口「フリーランス・トラブル110番」が2020年11月より設置されています。フリーランスに関する関係省庁と連携し、第二東京弁護士会が受託して運営しており、電話、メール、対面WEB(ビデオ通話)で相談でき、和解のあっせん手続も無料で利用できます。ぜひご活用ください。
(4)ロームシアター京都のガイドライン
環境の改善を目指し、各業界で有志の会や民間団体がガイドラインを次々に発出していますが、劇場の取組みとしては、ロームシアター京都が2022年3月に発表した「ハラスメント防止ガイドライン~ロームシアター京都で過こす全ての人のために~」が注目されます。これは、同館の館長問題に係る信頼回復の取組の一つとして策定されたもので、劇場がプロデュース・創作する事業では契約書にもガイドライン遵守が盛り込まれます。充実した内容ですので、興味のある方はぜひご一読ください。
https://rohmtheatrekyoto.jp/news/71649/