コラム

下請法から取適(トリテキ)法へ 第2回 適用事業者と適用取引の判断方法

2026.07.15

執筆者 弁護士 古家野 彰平

 2026年(令和8年)1月1日から、いわゆる「下請法」は、通称「取適法(とりてきほう)」として施行されています。
 取適法への対応を考えるうえで、最初に確認すべきなのは、ある取引が取適法の対象になるかどうかです。取適法の対象となる取引は、「事業者の資本金基準又は従業員基準」と「取引の内容」によって定義されます。
 つまり、取適法の対象になるかどうかを判断するためには、大きく分けて次の2つの要件を確認する必要があります。
 第1に、当事者に関する要件です。
 当事者が、資本金基準又は従業員基準に照らして、「委託事業者」と「中小受託事業者」の関係に立つかを確認します。
 第2に、取引内容に関する要件です。
 当該取引が、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託又は特定運送委託という「製造委託等」に当たるかを確認します。
 どちらか一方の要件だけで決まるものではなく、当事者に関する要件と取引内容に関する要件の双方を満たす場合に、取適法の対象となる取引として検討することになります。
 今回の改正との関係では、特に、当事者に関する要件について「従業員基準」が追加されたこと、取引内容に関する要件について「特定運送委託」が追加されたことが重要です。
 そこで、第2回では、まず当事者に関する要件を確認し、そのうえで取引内容に関する要件を整理します。

取適法では、規模に係る要件を満たす事業者間で製造委託等が行われる場合に、製造委託等をする側が「委託事業者」となり、製造委託等を受ける側が「中小受託事業者」となります。
 ここでいう規模に係る要件は、資本金基準及び従業員基準です。
 従来の下請法では、規模要件は基本的に資本金基準によって判断されていました。これに対し、今回の改正では、新たに従業員基準が追加されました。従来は資本金基準に該当しないため対象外とされていた取引であっても、改正後は従業員基準により取適法の対象となる場合があります。

 資本金基準は、従来の下請法から引き継がれる基本的な基準です。ここでいう資本金基準は、資本金又は出資総額を基準とするものです。
 資本金基準は、取引内容に応じて、大きく2つのグループに分けて整理されます。
 まず、製造委託、修理委託、特定運送委託、そして情報成果物作成委託・役務提供委託のうち、プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に係るものについては、資本金又は出資総額3億円又は1千万円を基準とする区分が用いられます。
 これに対し、上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託については、資本金又は出資総額5千万円又は1千万円を基準とする区分が用いられます。
 このように、資本金基準は、取引内容の類型ごとに異なります。そのため、実務では、当事者の資本金又は出資総額だけを見て終わるのではなく、その取引がどの類型に属するのかと合わせて確認する必要があります。

 今回の改正で重要なのが、従業員基準の追加です。
 従来の下請法では、規模要件は基本的に資本金基準によって判断されていました。これに対し、取適法では、新たに従業員基準が追加されました。従業員基準は、取引内容の類型に応じて、300人基準と100人基準に分かれます。
 まず、次の取引については、従業員300人基準が用いられます。

○ 製造委託
○ 修理委託
○ 特定運送委託
○ 情報成果物作成委託・役務提供委託のうち、プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に係るもの

 この類型では、従業員300人超の事業者が、従業員300人以下の事業者に委託する場合に、前者が委託事業者、後者が中小受託事業者となります。
 これに対し、次の取引については、従業員100人基準が用いられます。

○ 情報情報成果物作成委託・役務提供委託のうち、上記のプログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理を除くもの

 この類型では、従業員100人超の事業者が、従業員100人以下の事業者に委託する場合に、前者が委託事業者、後者が中小受託事業者となります。ただし、従業員基準は、資本金基準と完全に並列に用いるものではありません。従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。
 したがって、実務上は、まず資本金基準による適用関係を確認し、資本金基準が適用されない場合に、従業員基準による適用関係を確認する、という順序で整理するのが分かりやすいでしょう。
 この従業員基準の追加により、従来は資本金基準に該当しないため対象外と考えられていた取引であっても、改正後は取適法の対象となる場合があります。

 従業員基準が追加されると、資本金基準で見た場合と従業員基準で見た場合とで、委託事業者・中小受託事業者の関係が異なるのではないか、という問題が生じます。
 例えば、300人基準の取引類型を前提に、A社は資本金4億円・従業員100人、B社は資本金2億円・従業員400人であるとします。A社がB社に製造委託等をする場合、資本金基準で見ると、A社が委託事業者、B社が中小受託事業者となる方向で整理されます。
 一方、従業員数だけを見れば、B社が300人超、A社が300人以下ですので、逆の評価になりそうにも見えます。
 しかし、上述したとおり、従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。したがって、同一の委託取引について資本金基準が適用される場合には、従業員基準による逆転判断を重ねて行う必要はなく、資本金基準により適用関係を判断することになります。もっとも、ここで注意するべきことは、2事業者が相互に委託取引を行っている場合には、取引の向きによって、資本金基準で委託事業者に該当する者が従業員基準では中小受託事業者に、資本金基準で中小受託事業者に該当する者が従業員基準では委託事業者に、それぞれ該当することがあるということです。
 これは、適用判断が会社単位ではなく、委託取引ごとに行われるためです。
 上記の例で言えば、A社がB社に製造委託等をする場合には資本金基準によってA社が委託事業者、B社が中小受託事業者となりますが、B社がA社に製造委託等をする場合には従業員基準によってB社が委託事業者、A社が中小受託事業者となるということです。そのため、個々の委託取引ごとに、誰が製造委託等をし、誰がこれを受託するのかを確認することが重要です。

 従業員基準で問題になるのは、単なる従業員数ではなく、「常時使用する従業員の数」です。
 「常時使用する従業員」とは、その事業者が使用する労働者のうち、日々雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用される者を除く。)以外のものをいいます。その数は、賃金台帳の調製対象となる対象労働者の数によって算定します。常時使用する従業員には、正社員、契約社員・委嘱社員、パートタイマー・アルバイト、1か月を超えて引き続き使用される日雇い労働者などが含まれます。
 一方、派遣社員は派遣元が使用者となるため、派遣先となる事業者における「常時使用する従業員」には含まれません。また、従業員基準に該当するかどうかは、製造委託等をした時点における「常時使用する従業員の数」によって判断します。
 ただし、当月(N月)に製造委託等を行う場合、中小受託事業者が、前々月(N-2月)に賃金を支払った労働者の数を、前月(N-1月)末までに賃金台帳を調製した上で把握し、その数を委託事業者に回答するなどして、前々月(N-2月)の数を委託事業者が把握可能となっているときは、当月(N月)の製造委託等における「常時使用する従業員の数」として取り扱うことができます。

 従業員基準が追加されたことにより、「委託事業者は、取引先の従業員数を必ず確認しなければならないのか」という疑問が生じます。製造委託等をする事業者に、「常時使用する従業員の数」を確認する義務まではありません。
 例えば、取引の相手方の賃金台帳の閲覧やその写しの取得は必須ではありません。もっとも、取引の相手方が中小受託事業者であるかどうか判別する必要がある場合には、当該相手方に「常時使用する従業員の数」を確認することになります。
 また、中小受託事業者から事実と異なる回答を得たことにより、委託事業者が取適法の適用がないものと誤認し、結果として取適法に違反した場合には、違反行為については是正が必要です。
 ただし、そのような場合に直ちに勧告が行われるものではなく、必要に応じて指導及び助言が行われることがあります。
 この点からすると、法律上、相手方の従業員数を常に調査する義務があるわけではありませんが、適用対象性が問題となる取引については、確認の要否、確認方法、相手方からの回答内容を記録しておくことが実務上望ましいといえます。

 次に、取引内容に関する要件です。
 法の対象となる取引は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託及び特定運送委託の5種類の委託取引です。これらの対象取引は、「製造委託等」と総称されます。ここでいう「委託」とは、事業者が、他の事業者に対し、その給付に係る仕様、内容等を指定して一定の行為を依頼することをいいます。
 今回の改正との関係で特に重要なのは、この5類型の中に、新たに「特定運送委託」が追加されたことです。

 今回の改正で「特定運送委託」が追加されたため、「これまで運送は下請法の対象ではなかったのか」と思われるかもしれません。しかし、改正前から、運送に関する委託が下請法の対象となる場合はありました。
 それは、運送業者などが、他者に提供する目的で請け負った運送業務の全部又は一部を、別の事業者に委託する場合です。取適法の用語でいえば、「役務提供委託」に当たる場合です。役務提供委託とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を、他の事業者に委託することをいいます。
 ここで重要なのは、「提供の目的たる役務」という要件です。これは、事業者が他者に提供する役務を意味します。自社のために利用する役務を外部に委託する場合は、役務提供委託には当たりません。
 そのため、例えば、貨物自動車運送業者が、荷主から請け負った貨物運送のうち一部の経路における運送を他の貨物自動車運送業者に委託する場合や、貨物利用運送事業者が、請け負った貨物運送の一部を他の運送事業者に委託する場合は、役務提供委託に当たり得ます。
 つまり、改正前から対象となっていたのは、典型的には、運送業者が他者に提供する運送サービスをさらに別の運送事業者に委託する、いわば「運送サービスの再委託」の場面でした。これに対し、メーカーや小売業者などが、自社で販売した商品・製品を取引先に引き渡すため、運送事業者に配送を委託する場合は、基本的には「他者に提供する目的の役務」を再委託しているわけではありません。そのため、従来の役務提供委託の枠組みでは、当然には下請法の対象とはなりませんでした。

 今回の改正で新たに追加されたのが、「特定運送委託」です。
 特定運送委託とは、事業者が、次の物品について、その取引の相手方又はその相手方が指定する者に対する運送の行為の全部又は一部を、他の事業者に委託することをいいます。

○ 業として行う販売の目的物たる物品
○ 業として請け負う製造の目的物たる物品
○ 業として請け負う修理の目的物たる物品
○ 業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、又は化体された物品

 この定義から分かるように、特定運送委託は、単なる「運送の外注」一般を対象とするものではありません。販売、製造請負、修理請負、情報成果物作成請負といった取引の目的物等を、取引の相手方又はその指定する者に引き渡すための運送を、他の事業者に委託する場合が対象です。
 具体例としては、次のようなものが挙げられます。

○ 家具小売業者が、販売した家具を顧客に引き渡すため、その運送を他の事業者に委託する場合
○ 精密機器メーカーが、製造を請け負い完成させた精密機器を顧客に引き渡すため、その運送を他の事業者に委託する場合
○ 自動車修理業者が、修理を請け負い完成させた自動車を顧客に引き渡すため、その運送を他の事業者に委託する場合
○ 建築設計業者が、作成を請け負い完成させた建築模型を顧客に引き渡すため、その運送を他の事業者に委託する場合

要するに、改正前は、運送業者による運送サービスの再委託が役務提供委託として対象になり得たのに対し、改正後は、発荷主が自社の事業のために行う物品の運送を運送事業者に委託する取引も、新たに対象に加わることになります。

 特定運送委託が追加された背景には、物流取引における荷主と運送事業者との関係を、取適法の枠組みでも適正化する必要があるという問題意識があります。
 これまで、発荷主が運送事業者に対して自社商品の配送などを委託する場面は、独占禁止法や物流特殊指定などの枠組みにより規律されてきました。もっとも、物流の現場では、荷待ち、荷役、附帯作業、価格転嫁の困難さなど、発荷主と運送事業者との取引関係に起因する問題が指摘されてきました。 
 そのため、今回の改正では、発荷主が、販売・製造・修理・情報成果物作成の目的物等を取引の相手方に引き渡すために行う運送委託を、「特定運送委託」として取適法の対象に加えたものと整理できます。
 この改正により、発荷主と運送事業者との間で資本金基準又は従業員基準を満たす場合には、発荷主は、特定運送委託について、委託事業者として、発注内容の明示義務、書類の作成・保存義務、支払期日を定める義務、遅延利息の支払義務を負います。また、支払遅延、減額、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、協議に応じない一方的な代金決定などの禁止事項にも注意する必要があります。

 特定運送委託については、「運送を外注していれば全て対象になる」と理解するのは正確ではありません。 「取引の相手方に対する運送」とは、取引の目的物等を取引の相手方の占有下に移動することをいいます。また、運送以外の荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務は、特定運送委託そのものには含まれません。
 他方で、特定運送委託は、取引の相手方又はその指定する者に対する運送の行為の「全部又は一部」を他の事業者に委託する場合を対象とします。そのため、目的物の引渡しに必要な運送を丸ごと委託する場合はもちろん、複数の目的物のうち一部の数量だけを運送委託する場合や、引渡しまでの経路の一部だけを運送委託する場合も、特定運送委託に当たり得ます。もっとも、荷積み、荷下ろし、倉庫内作業、荷待ちなどの附帯業務は、特定運送委託の対象となる「運送」そのものには含まれません。
 しかし、発荷主と運送事業者との間の取引が特定運送委託に該当する場合には、当該特定運送委託に関連してこれらの附帯業務を無償で行わせることが、取適法上の禁止行為である不当な経済上の利益の提供要請に当たるおそれがあります。
 したがって、実務上は、次の点を確認する必要があります。
 第1に、その運送が、販売、製造請負、修理請負、情報成果物作成請負の目的物等に関するものかを確認します。これは、特定運送委託の対象となる「目的物等」に関する運送かを確認するものです。
 第2に、その運送が、取引の相手方又はその指定する者の占有下に、目的物等を移動するものかを確認します。これは、「取引の相手方に対する運送」に当たるかを確認するものです。
 第3に、運送の全部を委託している場合だけでなく、数量又は経路の一部のみを委託している場合も含めて、対象となる運送委託を漏れなく把握できているかを確認します。特定運送委託は、運送の「全部又は一部」の委託を対象とするため、一部委託を見落とさないようにする必要があります。
 第4に、特定運送委託に該当する取引に関連して、荷積み、荷下ろし、倉庫内作業、長時間の荷待ちなどを無償で行わせていないかを確認します。これは、特定運送委託の成立要件そのものではありませんが、特定運送委託に該当する場合に、取適法上の禁止行為である不当な経済上の利益の提供要請に当たるおそれがないかを確認するものです。
 特に、物流部門や出荷部門では、これまで「下請法の対象」という意識を持たずに行っていた取引が、取適法施行後は対象となる可能性があります。
 施行前に、自社の運送委託を整理しておくことが重要です。

 以上を踏まえると、取適法の実務対応としては、次の順序で対象となるかを確認するのがよいと思われます。
 まず、自社が外部に委託している取引を洗い出します。このとき、製造や情報成果物作成だけでなく、販売・製造・修理・情報成果物作成の目的物等の引渡しに関係する運送委託も対象に含めて確認します。
 次に、各取引について、当事者に関する要件を確認します。すなわち、取引当事者の資本金又は出資総額を確認し、資本金基準が適用されるかを検討します。資本金基準が適用されない場合には、従業員基準の検討が必要になります。
 そのうえで、取引内容に関する要件を確認します。当該取引が、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託又は特定運送委託に該当するかを確認します。なお、実際の検討では、当事者要件から確認する場合も、取引内容から確認する場合もあり得ます。重要なのは、最終的に、当事者に関する要件と取引内容に関する要件の双方を満たすかを確認することです。

 第2回では、取適法の適用事業者・適用取引の判断方法を整理しました。
 今回の改正との関係では、当事者に関する要件では従業員基準が追加され、取引内容に関する要件では特定運送委託が追加されました。
 従業員基準については、資本金基準が適用されない場合に適用されること、常時使用する従業員の数は賃金台帳の調製対象となる対象労働者の数によって判断されること、確認義務そのものはないものの、判別が必要な場合には相手方に確認することになることが重要です。
 また、運送の委託については、改正前から運送サービスの再委託が役務提供委託として対象になり得た一方で、改正後は、発荷主が販売・製造・修理・情報成果物作成の目的物等を取引の相手方に引き渡すための運送委託(=特定運送委託)も、新たに対象となり得る点に注意が必要です。
 次回(第3回)は、取適法改正の中心的なテーマである価格転嫁の推進、特に「協議に応じない一方的な代金決定」の禁止について整理します。

※本稿は、公正取引委員会・中小企業庁の公表資料等を参考に一般的な考え方をまとめたものです。個別の取引が適用対象に当たるかは、取引内容・当事者の規模関係等により結論が変わり得ますので、具体的な案件は専門家にご相談ください。