コラム

下請法から取適(トリテキ)法へ   第1回 法律の名称と用語の変更から見る改正の趣旨

2025.12.16

執筆者 弁護士 古家野 彰平

2026年(令和8年)1月1日から、いわゆる「下請法」が大きく生まれ変わります。
法律の名称も変わり、適用対象や禁止行為の中身も拡充されるため、実務への影響は小さくありません。
この連載では、4回に分けて下請法の改正(改正後の通称:取適法(とりてきほう))のポイントを解説していきます。

第1回の今回は、あえて法律の「名称」と「用語」に絞って、改正の趣旨を読み解いていきます。

今回の改正は、「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」によって行われました。
この改正により、従来「下請代金支払遅延等防止法」(略称「下請法」)と呼ばれていた法律の名称は、次のような非常に長いものに変わります。

もっとも、さすがにこの長い名称では実務上使いづらいため、公正取引委員会などの公式資料では、次のような整理がされています。

▷ 正式名称:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
▷ 略称: 中小受託取引適正化法
▷ 通称: 取適法(とりてきほう)

今までは、略称で「下請(したうけ)」法と呼ばれていました。
改正後の略称は「中小受託取引適正化法」ですが、これでもまだ長い呼び名です。
そのため、4文字で収まる「取適(とりてき)」法という通称が用意されています。

まだ聞き慣れない名前だと思います。
「トリテキ」というと「鳥のステーキ?」のような語感にも聞こえるかもしれませんが、まずはこの「取適(とりてき)法」という通称を覚えていただければと思います。

さて、ここで一つ、興味深い点があります。
略称は、上記のとおり「中小受託取引適正化法」ですが、先ほどの改正後の法律の正式名称には「取引適正化」という言葉は一度も出てこないのです。
(なお、フリーランス法の正式名称は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」であり、こちらは「取引の適正化」という文言が使われています。)

では、「取適法」の略称における「取引適正化」というフレーズはどこから来たのでしょうか。

公正取引委員会は、今回の改正について次のような説明をしています。
> 近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、発注者・受注者の対等な関係に基づき、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくことが重要。
> このため、協議を適切に行わない代金額の決定の禁止、手形による代金の支払等の禁止、規制及び振興の対象となる取引への運送委託の追加等の措置を講ずるとともに、多段階の取引当事者が連携した取組等を支援し、価格転嫁・取引適正化を徹底していく。

つまり、「中小受託取引適正化法」という略称は、法文そのものを略したものではなく、「中小企業が受託する取引を適正なものにしていく」という政策目的を、そのまま名前に込めたものと言えます。

そして、その「取引適正化」のための改正の中身ですが、

  • 価格交渉・価格転嫁を巡るルールの明文化
  • 従業員数基準の導入による適用範囲の拡大
  • 手形払等の禁止
  • 物流(特定運送委託)の追加
  • 面的執行の強化

といった内容がセットで設けられ、中小企業の立場を踏まえた取引ルールの再設計が図られています。

また、名称の変更と並んで象徴的なのが、取引や当事者を指す用語の変更です。
公正取引委員会・中小企業庁のガイドブック等では、主な用語変更が次のように整理されています。

旧・下請法の用語取適法での用語
下請代金→ 製造委託等代金
親事業者→ 委託事業者
下請事業者→ 中小受託事業者
下請取引→ 受託取引

従来は「親事業者/下請事業者」という呼び名だったものが、改正後は「委託事業者/中小受託事業者」という、より力の上下関係を感じさせないニュートラルな用語に切り替わります。

「下請」という用語が発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるという指摘があり、それを解消するのが用語切り替えの大きな理由です。
また、時代の変化に伴い、発注者である大企業の側でも「下請」という用語は使われなくなっている実態があるということも用語切り替えの理由とされています。

ただし、「中小受託事業者」という呼び方には、「受託側は中小企業である」という前提が当然あります。
表現としては上下関係を前提としないニュートラルな用語に切り替えつつも、「規模の小さい側を守るための法律である」という性格は変わりません。

なお、法文上、「下請取引」は改正によって「受託取引」という用語に置き換えられています。
ただ、「受託取引」だけでは何の受託取引か伝わりにくいですし、特にフリーランス法では「特定受託事業者」「特定受託業務従事者」といった用語が使われます。
そのため、フリーランス法の「特定受託業務」と混同しないようにする観点から、取適法が適用される取引については「中小受託取引」という用語を使うのがよいでしょう。

こうした法律や用語の名称は、形式的なものと思われがちです。
しかし、これら言葉の変更は、改正後の取適法において「誰が、どの立場で、どのルールの対象になるのか」を誤解なく理解し、コミュニケーションをするための出発点になります。
そのため、今回はあえて、法律の名称と用語という入口だけを取り上げました。

次回(第2回)は、改正に伴う変更点の中で、もっとも重要なテーマの一つである「ある取引が、取適法の対象になるのかどうか」を、適用事業者・適用取引の観点から解説していきます。