コラム
アクティブバイスタンダー(行動する傍観者)が持つ可能性
2024年10月1日、京都弁護士会にて開催された研修「ハラスメント防止のためのアクティブバイスタンダー研修~単なる傍観者にならないために~」を受講してきました。
講師は、ジェンダー総合研究所(https://gri-tokyo.jp/)の安藤真由美さんと濵田真理さんです。
「バイスタンダー」とは、ハラスメント等の場に居合わせた第三者(傍観者)のことを指し、「アクティブバイスタンダー(行動する傍観者)」とはその場でハラスメント等の防止や被害者のケアのために介入する傍観者のことを指します。ハラスメント等が発生したとき、第三者が傍観したまま何も行動しないと、ハラスメント等の行為者を勢いづけ、被害者をさらに傷つけてしまいますし、ハラスメントのさらなる発生を招くことになりかねません。
しかし、そこで第三者が適切に介入すると、事態の悪化を防いだり、さらなるハラスメント等発生を予防したりする効果が期待できます。
介入の方法は基本的に5つあり、「加害者の気をそらす」、「助けを呼ぶ」、「記録する」、「加害者に直接指摘する」、「被害者のアフターケア」です。
ハラスメント等の場面に出くわした時には、これらの中から適切な方法を選択していくことになります。しかし、ハラスメント等が発生した現場で、とっさに判断し、行動に移すことは、なかなかできるものではありません。バイスタンダーとハラスメント等の行為者との間の力関係によっては、バイスタンダーも、介入することで加害者から攻撃の対象となるおそれがありますから、執りうる介入方法も選択肢が限定されることもあり得ます。
そこで、研修では、介入の方法について解説していただいた後、ロールプレイ形式で、研修参加者で具体的な事例における介入方法を提案し、シェアしあいました。受講者から様々な介入のアイデアが出され、大変学びが多い研修でした。
そして、「アクティブバイスタンダー」の取り組みは、次の①~③の点で大きな可能性があると感じました。
① ハラスメント等の防止や予防をし、被害者をケアする方が増えること
私は、日頃、弁護士業務だけでなく、京都弁護士会のハラスメント等苦情相談制度の運営担当者としても、ハラスメント等の防止の取り組みをしています。ただ、ハラスメント防止のために研修を企画しても、関心のある方にはお越しいただけるのですが、関心のない方にはなかなか研修に来ていただくことができないという悩みがありました。
しかし、バイスタンダーによる介入を促進するアプローチだと、ハラスメント防止に関心がある人がその手法を学び、今後も能動的に行動してくださることによって、ハラスメント等の防止や予防をしたり、被害者をケアをしてくれる方が増えることが期待できます。
ハラスメント研修とはまた違った形でハラスメントの予防や防止の輪が拡がる可能性を感じました。
② 「~べからず」から「~すべき」への意識の転換
また、普通のハラスメント研修の場合、基本的に「ハラスメント等をしてはダメですよ」という形で啓発をしていくことになります。その場合、受講者は、ある意味、「ハラスメント等の行為者予備軍」として扱われることになります。そして、加害者とされる層や集団に属する方が研修を受講すると、防衛的になって反発し、研修が奏効しない場合があるとの研究結果もあるそうです。
海遊館事件の最高裁判決でも、ハラスメントの行為者がセクハラに関する研修を受けた後に「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ。」、「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや。」という発言をしたとの判示がされていました。
このような発言自体がハラスメントになりうるのですが、こうした反発の反応自体はありうることなのです。
一方、「アクティブバイスタンダー」の手法を学ぶ場では、受講者は皆、加害者ではなく、被害者をハラスメント等から守り、ケアする主体として扱われますから、上述した反発の反応が起きにくくなり、研修の内容を受け入れやすくなります。
このような「~べからず」から「~すべき」への意識の転換は、研修を奏効させる上でも有用だと感じました。
③ 他の分野へのひろがり
そして、「アクティブバイスタンダー」のアプローチが有効なのは、ハラスメント等の場面だけではありません。学校でのいじめや、社会における差別的行為に直面したときにも、第三者による介入は有用であると思われます。
今後も引き続き「アクティブバイスタンダー」の取り組みを学び、ハラスメントや差別の防止・予防の活動に活かしていこうと思います。