コラム

変革期にある伝統産業の事業者に対する法的支援

2023.08.22

執筆者 弁護士 古家野 彰平

 伝統産業は、日本の文化や生活に結びついた製品やサービスを提供する産業です。従って、日本の文化の振興にとって、伝統産業の事業者の持続・発展は欠かせません。

 京都は、日本の伝統産業の中心地として発展する中で、専門工程を担う小規模事業者が連携して製造する分業体制や、生産と流通が分業し小売優先の体制が、それぞれ構築・維持されてきたという特色があります。
 もっとも、こうした伝統事業のあり方にも課題が顕在化してきています。京都府の商工労働観光部及び農林水産部が令和3(2021)年6月に取りまとめた「WITHコロナ・ POSTコロナ社会における産業戦略」の「新型コロナウイ ルス感染症危機克服会議[伝統産業]提言」によりますと、京都の伝統産業は、コロナ禍以前から長期的に売上減少、生産量低下の傾向にあったところ、コロナ禍によって、①市場と作り手の繋ぎ役となるコーディネータの機能低下や、変革を促すイノベーターの参入減少、②現代のライフスタイルに合致した価値を提供できていない、③分野を横断して協働する体制が弱い、④市場ニーズを把握する仕組みが弱くなったことや職人の高齢化・後継者不足により、ものづくりの技術が衰退している、⑤世界市場を意識できていない、といった課題が顕在化したと指摘されています。
 近年の中小企業の重大な経営課題として、国際化、デジタル化、人口減少への対応が挙げられますが、小規模事業者による分業体制という特色を有する京都の伝統産業では、それらへの対応がより執りづらい状況が続いていたとも言えるかもしれません。
 そして、上記提言では、「コロナ禍により小売業・卸売業への影響は特に大きいところであるが、廃業リスクは原材料や製造工程を担う製造業のほうが大きく、伝統産業界の構造改革が急務となっている状況である。」とされ、京都の伝統産業が大きな変革期にあることがわかります。

 上記の課題に対し、伝統産業の事業者は、従前と異なる取引先や商流を開拓し、あるいは、新たにクリエイティブな人材や若年者を採用・登用し、又は、支援者や協業する事業者パートナーシップを構築することになるでしょう。今までと異なる商慣習や価値観、法文化を有する相手方と事業や取引をすることになるため、その分、法的トラブルに遭うリスクも上昇します。そのため、以下のような施策を実施する中で、それぞれ、伴走的・継続的な法的支援が必要となるでしょう。

(1)海外市場を見据え、現代的なライフスタイルを反映した、高付加な価値を有する商品・サービスの開発や新規事業の立ち上げ
 ⇒海外展開や知的財産に関する法的知見を有する弁護士による契約交渉支援、創業支援。

(2)IT等の先端技術の導入、前後の工程の統合によるものづくりの再構築。その過程における事業統合や商流の再構築
  ⇒情報セキュリティ。事業承継やM&A。下請法やフリーランス新法を踏まえた取引条件の明確化・書面化。

(3)事業者を横断する(産官学連携を含めた)協力体制の構築
  ⇒協力体制におけるそれぞれのプレイヤーの義務と権利の明確化・書面化。

(4)(1)~(4)を実現するための人材の育成、採用、登用。チームづくり
  ⇒徒弟制から脱却し、高等教育を受けた若年労働者についても採用・育成することができるよう、労働法を踏まえた人事制度の構築。

 京都の伝統産業は、長い伝統の中で革新を繰り返しながら持続・発展してきました。今直面している課題についても必ずや変革を実現し、持続・発展を続けられることでしょう。
 当事務所としても京都の弁護士として、そのお役に立てるよう、引き続き励みたいと思います。