コラム

「事業」で「家族」の強みを活かすには

2022.02.22

執筆者 弁護士 古家野 彰平

 私の重点的な取扱分野は、事業承継、特に同族中小企業における親族内承継です。親族内承継の成功・失敗事例を見ていると、経営者自身の家族への向き合い方の重要性に気付かされます。

ファミリービジネスの強みとは

 株式会社では「所有」(オーナー・株主)と「経営」(ビジネス・取締役)が分離していますが、ファミリービジネスでは、ファミリーを介して所有と経営を一致させることにより企業価値の最大化を目指すことができる点で事業上の優位性があります。長期的視点で経営することができる点等もメリットです。また、家族は「相続」という他にはない経営資源の承継手段を有しています。親族内承継は長らく中小企業の主要な事業承継方法でした。
 もっとも、近年我が国では親族内の後継者難を理由に中小企業の事業承継難が社会問題となっています。事業と家族の間の隔たりは昔より広がり、今や子が家業を承継するのは当たり前のことではなくなりました。後継者難を克服して、「家族」の本来の強みを事業に活かすには、経営者自身が主体的に「家族」に向き合い、事業と「家族」との間で良好な関係を構築する必要があるのです。

スリーサークルモデルの活用

 親族内承継において、「家族」は、株式等の経営資源の承継の受け皿や取締役等の経営幹部輩出の母体として機能します。これらの機能が発揮されているかを把握するには、「所有」と「経営」の一致の状況について、「家族」(ファミリー)の要素を加えて、3つの円のモデル(下図)で表現するのが、わかりやすいです。

スリーサイクルモデル

 例えば、創業者オーナーは、A・B・Cの3つの円が重なりあう中心部分に位置しますが、後継者候補である子は、当初はAやBと重ならない部分のCの円に位置します。子は、株式を取得すればAの円と重なりあう部分に移動し、役員になればBの円と重なりあう部分に移動するという風に、次第に3つの円が重なりあう中心部分に移動していき、後継者となっていきます。一方、家族で人(後継者)が育っていなければ、このような株式の移転や役員処遇は進んでいきません。

後継者育成のために経営者がするべきこと

 成功事例を見ていて思うのは、後継者育成のために経営者がまずするべきことは、引き継ぎたいと思われるような事業にすることでしょう。経営状態や社会的評価、従業員や顧客との関係もさることながら、経営者自身やりがいや喜びをもって仕事をしていることが大事です。そしてそれが家族に伝わっている必要があります。特に共に子を育てる配偶者からの理解と協力を得ることは要所です。事業を口実に家族を犠牲にしてしまうようだと危険でしょう。
 また、親が子に跡をついでもらうことを願うのは良いですが、進路を強制すると子が反発し、かえって遠回りしてしまうケースが多いようです。事業者の子は、何かにつけて親戚や他人から「親の跡を継ぐの?」と聞かれてプレッシャーを受けがちなので、一定の時期までは子のやりたいようにさせ、それを応援するくらいでいいかもしれません。子が望んだ進路を進むことは、子の自主性や長所を育むことにつながり、それが案外近道であったりします。

ファミリーガバナンス

 また、コーポレートガバナンスという概念があるように、近年ではファミリーについても、家訓・家憲の策定、ファミリーオフィスの設定、家族総会等の会議体の設置等の方法により、創業家一族内のガバナンスを構築し、株式等の資産を創業家で承継しながら事業と創業家の間の良好な関係を維持するという考え方があります。
 事業の規模や事業と家族の関わり方を踏まえ、適切な支援をしていきたいと思っています。