コラム

令和3年民法・不動産登記法改正~相続実務への影響~

2021.08.02

執筆者 弁護士 古家野 彰平

 本年4月に民法・不動産登記法の改正と相続土地国庫帰属法の制定が行われました。所有者不明土地問題対策を契機に行われた立法ですが、実質的な改正が多く、民法・不動産登記法の改正は共有や相続全般に及ぶものとなっているので、実務に大きな影響があります。

 以下、相続実務に関連する主要なものについて、施行時期毎に解説します。

【公布日(令和3年4月28日)から2年以内に施行】

1.共有財産の変更・管理について以下のとおりルールが変更されました。相続財産は、遺産分割されるまでは相続人間の共有又は準共有状態となりますので、ルール変更の影響を受けます。

  • 共有物を使用する共有者がいる場合、その共有者の同意がなくとも、共有者の持分価格の過半数により共有物の管理に関する事項を決することができるようになりました。但し、利用方法の変更が共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼす場合には、その共有者の承諾を得る必要があります。

  • 共有者の持分価格の過半数で、共有物について短期賃借権の設定や、共有物の管理者の選解任ができることが定められました。
  • 裁判所の許可により、所在等不明共有者や裁判所からの催告に対して賛否の回答をしない共有者以外の共有者の同意によって、共有物の変更行為や管理行為を可能とする制度が創設されました。

  • 裁判所の決定により、所在等不明共有者の持分を取得したり、所在等不明共有者の持分の譲渡権限を付与したりする制度が設けられました(但し、遺産共有の場合には原則として相続開始の時から10年経過前はできません。)。

2.法定相続人が相続を単純承認した後、遺産分割前までの間や相続人がいない場合についても、相続財産を保存するための財産管理人を置くことができるようになりました。

3. 相続開始から10年を経過するまでに家庭裁判所に遺産分割の請求をしない場合、原則として、特別受益及び寄与分の主張ができなくなります。
 また、相続開始から10年が経過し、相続人が異議を述べないときは、共有物分割訴訟の中で、遺産共有持分の分割ができるようになりました。
 これらは施行日前の相続にも遡及適用されます。但し、経過措置により、少なくとも施行の時から5年を経過する時までは改正前のルールが適用されます。

4.相続又は相続人に対する遺贈によって相続人が取得した土地のうち、相続人から申請があり、所定の要件を満たしているものについて、法務大臣の行政処分により国家に帰属させる制度(相続土地国家帰属制度)が創設されました。これにより、価値が乏しく管理負担の重い土地を相続等により取得した相続人がその負担から解放される道が開かれます。但し、この場合、審査及び土地に関して生じる管理及び処分に要する費用の負担金を納付する必要があります。

【公布日から3年以内に施行】

5.不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をする義務を負い、正当な理由のない申請漏れには5万円以下の過料が科されます。
 この義務の創設とセットで、相続人は、登記名義人の法定相続人である旨を申し出ることで、上記の申請義務を果たしたとみなされる制度(相続人申告登記)が設けられました。申出人は、自分が法定相続人であることがわかる限度で戸籍謄本・抄本を提出すれば足ります。

【公布日から5年以内に施行】

6.登記官が他の公的機関(住基ネット等)から死亡等の情報を取得し、職権で登記に表示する仕組みが設けられました。

7.自己又は自己の被相続人となる者を登記名義人とする不動産の登記情報を名寄せして証明する制度(所有不動産記録証明制度)が創設されました。