コラム

著作権保護と二次創作

2023.08.21

執筆者 弁護士 大江 美香

 皆さんは、『クマのプーさん(原題:Winnie-the-Pooh)』という小説(以下、「原作本」といいます。)をご存知でしょうか。
 1926年にアメリカで出版されたA・A・ミルン氏による児童小説(絵本)で、ディズニーキャラクターである「くまのプーさん」の原作として知られている小説です。
 今年3月に、イギリスで、原作本の二次創作である映画(以下、「本映画」といいます。)が公開されました(日本では6月に公開)。本映画が作られた背景には、アメリカで原作本の著作権が切れたことにあります(なお、ディズニー社のアニメ版「プーさん」の著作権は切れていません。)。アメリカ著作権法は、1998年の法改正で、1923年から1977年の間に発行された著作物には、公表後95年の保護期間を与えているのですが、原作本の保護期間が2022年1月に終了して、パブリックドメイン(公有)となり、二次創作が可能となりました。
 本映画は、ほのぼのとした児童小説の雰囲気からはかけ離れたB級ホラー映画で、これまで私自身も持っていた「プーさん」のイメージを覆す内容であることに驚いたのですが、本映画が注目を集めることができたのも、原作本が長期間著作権で保護され、皆が共通するイメージを有していたからこそです。著作権の保護が切れると、多くの人たちから愛されている原作のイメージを損なうような二次創作も可能になるため、それを防止している著作権の重要性を実感していただける例ではないかと思います。

 著作権法の目的は、著作者がもつ権利を保護するとともに、著作物の公正な利用を確保することで、文化の発展に貢献することです(著作権法1条)。著作物を他人が勝手に利用できてしまうとなると、著作者の利益が侵害され、創作意欲が失われて、文化の発展が阻害されます。そのため、著作権は、著作物を創作したときから自動で取得でき(無方式主義といい、申請・審査が必要な特許権などとは異なります。)、著作者は、著作物について他人の利用をコントロールできるのです。
 著作権の保護期間は、国によって異なり、そこには、国の文化的な感覚や方針が現れていると言われており、現在、日本では死後70年または公表後70年となっています。日本にも有名な小説、漫画、アニメなどのコンテンツが多くあり、著作権によってこれらの保護を図る一方で、適正に他者に利用してもらうことで、更なる文化の発展に寄与してもらうことも必要になります。コンテンツによっては、商用利用しないファンアートなどの二次創作は許容し、あるいはグレーゾーンとして存在させることで、コンテンツの普及に一役買って貰うという方法が選択されていることもあります。

 他方で、アメリカの著作権法は、保護期間を延長する方向で法改正が繰り返されているのですが、これは、ミッキーマウスの著作権が切れそうになる度に、ミッキーマウスの著作権を有するディズニー社の強力なロビー活動が行われて、法改正がされてきたためといわれています。
 しかし、来年1月には、ミッキーマウスが初めて登場した1928年制作のアニメーション作品、「蒸気船ウィリー」の著作権の保護期間が切れて、パブリックドメインとなることが注目されています。今後、ミッキーマウスについて二次創作がなされてキャラクターイメージが毀損されることがあれば、ディズニー社のビジネスにも影響を与えるかもしれません。

 米国デューク大学ロースクールのパブリックドメイン研究センターが、毎年、どのような作品がパブリックドメインになるかを発表しています。ご興味のある方は、覗いてみてはいかがでしょうか(https://web.law.duke.edu/cspd/)。