コラム

公益通報者保護法が改正されました

2022.08.17

執筆者 弁護士 大江 美香

1 公益通報者保護法とは?

 公益通報者保護法は、企業による不祥事を事業者の内部から通報する労働者等(以下、「通報者」といいます。)が、どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのかというルールを定めた法律です。

 企業による不祥事は、国民の生命、身体、財産その他の利益を大きく侵害するものであることが多いため、被害拡大を防止するために通報する行為は、正当な行為として、事業者による解雇等の不利益な取扱いから保護されるべきと考えられています。

2 企業側のメリット

 公益通報は、事業者にとっても、自社内のリスクを早期に把握できるというメリットがあります。リスクに対して早期に対処することで、レピュテーションリスクをコントロールすることができますので、企業価値や社会的信用を向上させることにもつながります。

3 令和4年(2022年)6月1日施行の法改正

 平成18年に公益通報者保護法が施行された後も、企業の不祥事は後を絶たず、公益通報制度が十分に機能しているとは言い難い状況でした。本年の法改正では、以下のとおり、公益通報制度の体制整備を事業者に義務付け、通報者がより安心して通報ができるようになることを目的としています。

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(1) 公益通報に適切に対応するために必要な体制整備の義務化

① 常時働いている労働者の数が301名以上の事業者は、公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備及びこの体制を適切に運用することが義務づけられました(従業員数300人以下の中小事業者は努力義務)(第11条)。

② 公益通報の実効性確保のために、前項①の体制整備義務に違反する事業者に対して、内閣総理大臣による助言・指導、勧告及び勧告に従わない場合にはその旨を公表できるようになりました(第15条、16条)。

③ 内部調査等に従事する公益通報対応業務従事者や同従事者であった者に対し、通報者を特定させる情報の守秘を義務づけ、義務違反に対しては、刑事罰が導入されました(第12条、21条)。

(2) 行政機関等への通報がより行いやすくなりました

① これまで、行政機関への通報は、通報対象事実が生じ又は生じようとしていると信じるに足りる相当の理由がある場合にのみ許されていました(真実相当性) 。しかし、公益通報に真実相当性を求めることは、通報のハードルを上げることになります。そこで、通報者が氏名等を記載した書面を提出して公益通報を行う場合は、真実相当性は要求しない、新たな通報方法が追加されました(第3条第2号)。

② 事業者が通報者に不利益な取り扱いを行うと信ずるに足りる相当な理由がある場合等(その他の場合は、条文をご確認ください)には、公益通報を報道機関等へ行うことも認められています。
  これまで、報道機関等への通報対象事実は、個人の生命・身体に対する危害のみでしたが、回復困難又は重大な財産に対する損害が追加されました(第3条第3号)。

③ 事業者と同様に、権限を有する行政機関に対しても、公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備等が義務付けられました(第13条第2項)。

(3) 通報者がより手厚く保護されるようになりました

① 通報者として保護される者が、労働者のみから、退職後1年以内の退職者や役員等にも拡大されました(第2条第1項等)。

② 公益通報の通報対象事実は刑事罰の対象となる法令違反行為に限られていましたが、行政罰の対象となる法令違反行為も追加されました(第2条3項) 。

③ 事業者が公益通報により受けた損害を通報者に対して請求することはできないことが明記されました(第7条) 。