コラム

契約書における押印廃止のポイント

2021.02.20

執筆者 弁護士 大江 美香

 コロナ禍によるニューノーマルの中で、「はんこ文化」の廃止・縮小が急速に進んでいます。ここでは、特に契約書における押印の意味と押印の代替手段として注目されている電子署名についてご説明します。

契約書における押印は何のため?

 契約は、一方が、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(申込み)をし、これを相手方が承諾をしたときに成立します(民法522条1項)。

 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しません(同条2項)が、口約束だけでは後のトラブルが心配です。そこで、当事者双方の意思の合致を明確にするために、契約書を交わします。

 もっとも、民事裁判において、文書を証拠とするためには、その文書が本人の認識等を示したものであること(文書の成立の真正性)を証明しなければならないとされています(民事訴訟法228条1項)。しかし、この点が争いになるたびに、いちいち証明をしなければならないとすると大変です。そこで、この負担を軽減するために、実務上、「押印」には、「二段の推定」が及ぶとされています。

 二段の推定では、①文書に本人の印章による印影があれば、本人の意思に基づく押印と事実上推定され(最判昭 39・5・12民集 18 巻4号 597 頁・1段目の推定)、さらに、②本人の押印があれば、文書が真正に成立したものと法律上推定されます(民事訴訟法228条4項・2段目の推定)。

 あくまでも推定ですので、反証された場合には文書の成立の真正は否定されますが、押印があれば立証上の負担が軽減されるため、重要な書類には必ず押印することが慣行となっているのです。

押印の代替手段である「電子署名」

 電子署名法は、20年も前の2001年に施行され、一定の要件を満たす「電子署名」があれば、文書が真正に成立したものと推定される、と規定しています(3条)。しかし、この推定が及ぶためには、法務局が発行する本人名義の電子証明書を使った電子署名(当事者型)が必要とされていて、使い勝手が悪く、ほとんど普及しませんでした。

 一方で、コロナ禍において導入が進んだのが、立会人署名型の電子契約サービス(利用者の指示に基づきサービス提供者自身の署名鍵による暗号化等を行うもの)です。昨年9月、立会人署名型の電子署名についても一定の要件を満たす場合は電子署名法3条の推定効が及びうるとの政府見解が示され、注目されています。

 もっとも、どのような場合に、本人の意思に基づく電子署名であると推定できるか(1段目の推定)については、まだ明確なルールがなく、サービス事業者ごとに異なる署名者の身元確認方法や認証方法等を採用していますので、導入の際には、事前にサービス内容を十分に検討してから導入を決める必要があります。また、電子署名を利用する側も、無権代理リスクを低減するために、印鑑の管理と同様、電子メールアドレスやログイン情報の管理が極めて重要です。会社であれば、社内ルールの整備が必須ですし、取引先との間で電子署名に関する確認書を交わしておくこともご検討ください。

 電子署名は今後どんどん一般化していくものと思いますので、ご不明点があればぜひご相談ください。