コラム
遺留分制度について(3)~他の諸制度との関係ほか~
本コラムでは、遺留分に関する第1回のコラム(【遺留分制度について】)及び第2回のコラム(【遺留分制度について(2)~遺留分の基本と計算方法~】)を前提に、他の諸制度との関係等を紹介します。
1.「特別受益」との関係
「特別受益」とは、被相続人から一定の利益(生前贈与や遺贈)を受けた法定相続人が、その利益を相続分に反映させる制度です。特別受益がある場合には、遺産分割の際に当該利益を法定相続分に持ち戻して相続分を算定することになります。これは、特定の相続人だけが生前多くの利益を受けていた結果、他の相続人との公平が損なわれることを防ぐためです。
遺留分制度においても、特別受益として持ち戻された金額は遺留分の基礎とされる財産額に含まれるため、遺留分の計算に影響します。すなわち、特別受益の持戻しは遺留分の算定基礎として考慮されますので、遺留分額に反映されることになります(ただし、遺産分割の場面と異なり、基本的に相続開始前10年間に行われたものに限られる点に注意が必要です)。
2.「寄与分」との関係
(1) 寄与分とは?
寄与分とは、共同相続人のうち、被相続人の財産の維持あるいは増加に特別の貢献をした者に、その貢献に応じて相続分を増やす制度です。具体例としては、被相続人の療養看護を長年無償で行ったケースや、被相続人の事業を手伝って財産形成に寄与した場合などが挙げられます。
寄与分制度は、遺産の維持・形成に貢献した相続人に遺産を多く相続させることで、相続人間の公平性を確保するものであり、それが被相続人の推定的意思にも合致すると考えられる点で正当性が認められるものです。
(2) 遺留分制度と寄与分との関係
しかし、遺留分の計算においては、寄与分は考慮されません。
そもそも遺留分制度は、①残された相続人の生活保障、②遺産の形成に貢献した相続人が有する潜在的持分の清算等を目的としています。そして、特に①の生活保障という側面を重視すると、他の相続人の寄与の有無によって生活保障の基準は変わらないため、遺留分において寄与分は考慮されないのです。
【ミニコラム:遺留分制度の趣旨からの帰結?】
上記のような遺留分制度の趣旨に鑑みると、確かに遺留分において寄与分が考慮されないのは当然のようにも思えます。しかし、それが論理必然かというと、そうでもなさそうです。
例えば、①残された相続人の生活保障という側面から考えても、例えば遺産の大部分が他の相続人による寄与によって形成・維持されたようなケースであれば、寄与がなければそもそも生活保障ができるほどの遺産がなかったはずであり、いわば寄与のおかげで棚ぼた的に発生した遺留分による生活保障を寄与分に優先させるべきかどうかという問題が出てきます。
また、②相続人の潜在的持分の清算という側面からは、むしろ寄与分を考慮すべきような気もします。
なお、私は別に「遺留分制度において寄与分も考慮すべき」と考えているわけではないのですが、遺留分制度の制度趣旨との関係で寄与分をどう位置付けるかという問題に興味を持ったため、ミニコラムで書き添えた次第です。
(3) 寄与分が存在する遺産分割と遺留分との関係
では、逆に寄与分が存在する遺産分割において、遺留分は一切考慮されないのでしょうか。例えば、遺産分割において、一部の相続人に多額の寄与分が認められてその者の取り分が大きくなった結果、他の相続人が取得できる遺産が遺留分を下回るというケースを想定します。
この点について、民法には、寄与分が遺留分を侵害してはならないといった明文の規定はありません。そのため、条文上は、寄与分により他の相続人の遺留分が事実上侵害されることも許容されているようにも見えます。
もっとも、裁判例の中には、寄与分を判断する際の考慮要素の1つとして、他の相続人の遺留分との関係を挙げるものもあります(東京高決平成3年12月24日)。そうすると、少なくとも、他の相続人の遺留分を侵害することまで正当化されるほどの特別の寄与があったと判断されない限りは、寄与分が遺留分を侵害することは許容されないものと考えられます。