コラム

外国人労働力の活用-特定技能制度の拡充を受けて-

2024.03.29

執筆者 弁護士 三代 昌典

1.日本における外国人労働者の就労状況

 日本では約182万3000人の外国人が就労しており(令和4年10月末時点)、そのうち就労目的での在留が認められている者(「専門的・技術的分野の在留資格」)は約48万人、それ以外は永住者や日本人の配偶者等の身分に基づき在留する者、技能実習、特定活動、資格外活動(留学生のアルバイト等)の形で就労しています。このうち、技能実習制度は平成5年に始まった制度ですが、これは主に東南アジアの発展途上国から技能実習生を受け入れ、技能実習生の本国に技能を移転させて国際貢献することを目的とする制度であり、あくまで日本国内の労働力の確保というのは副次的な結果でした。なお、同制度については、令和5年11月に有識者会議から廃止に向けた提言がなされており、今後は新制度へと移行していく可能性があります。
 これに対し、平成31年4月から開始された「特定技能」の在留資格の制度は、労働力人口の減少により深刻化する人手不足に対応することを目的として外国から労働者を受け入れる制度です。ただし、受け入れ対象者には限定があり、特定の技能を有し一定の日本語能力もある者に限っています。

2.特定技能制度について

 特定技能には1号と2号があり、特定技能1号は特定の産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事することを可能とする在留資格であって、在留期間は通算5年、家族には基本的に在留資格が付与されません。一方、特定技能2号は当該産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事することを可能とする在留資格であり、在留期間は更新することができ、要件を満たせば家族にも在留資格が付与されます。
 これまで、特定技能1号の特定産業分野が12分野(介護、ビルクリーニング業、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野、建設業、造船・船用工業、自動車整備業、航空業、宿泊業、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業)あるのに対し、特定技能2号の対象産業分野は2分野(建設業、造船・船用工業)のみでした。しかし、令和5年8月31日の改正により、特定技能1号の12の特定産業分野のうち介護分野以外の全ての分野が特定技能2号の対象となりました(介護分野は現行の専門的・技術的分野の在留資格に「介護」があるため、特定技能2号の追加対象に入っていません。)。

3.今後の方針性について

 これまで、日本政府の方針は、「専門的・技術的分野の外国人労働者」については経済活性化及び国際化を図る趣旨から積極的に推進しつつ、それ以外の分野の外国人労働者については経済及び国民生活に多大な影響を及ぼすため国民のコンセンサスを踏まえつつ慎重に検討するというものでした。そして、前者の一環として特定技能制度も積極的に推進され、直近の改正でも期間制限なく就労できる対象分野が拡大された一方、後者についてはまだ大きな動きはありません。
 もっとも、日本は今後さらに少子高齢化が進むと言われており、そうするといずれは産業分野の制限の撤廃・縮小や、さらには単純労働者の受入れに舵を切る可能性もありそうです。外国人労働者の受入れ拡大については賛否両論あり、労働力の確保といった面で肯定的な意見がある一方、文化や宗教の違いを踏まえた社会的共生の課題や労働力の過剰流入(それによる日本人労働者の就職先の圧迫)等の懸念も示されています。なお、このテーマは平成26年のディベート甲子園(高校生によるディベートの大会)でも取り上げられており、社会的関心も強いテーマと言えます。
 これからどのような方向に進んでいくのかは定かでありませんが、少子高齢化による労働人口の減少という不可避の問題に向き合い、労働人口の減少を受け入れた上で社会の回し方を変えていくのか、それとも国外から労働力を招き入れて労働人口を維持する方向で進むのか、日本社会全体で考えていく必要がありそうです。