コラム

サッカースタジアムを中心とした文化の発展

2023.08.24

執筆者 弁護士 三代 昌典

1.はじめに

 かつては、スタジアムといえば市や県が所有・運営し、サッカークラブは試合がある時だけ市や県からスタジアムを借りることが一般的でした。スタジアム建設には多額の資金が必要なため、地方公共団体が公共工事としてスタジアムを建設し、そのまま所有・運営するほかなかったのです。
 しかし、これだとサッカークラブが集客方法やサイドビジネスに工夫を凝らそうとしても、市や県との調整における制約等もあり、なかなか思いどおりにいかないというのが実情でした。一方で、サッカークラブがスタジアムを買い取るにはあまりに高額であり、自治体所有の物を民間企業が買い取るという面でもハードルがあるため、なかなか現実的ではありません。そんな中、2003年の地方自治法改正により、市や県がスタジアムを所有したまま民間企業がスタジアムの運営・管理をする「指定管理者制度」が創設されました。

2.指定管理者制度について

 指定管理者制度は、多様化する住民ニーズに効果的・効率的に対応するため、民間ノウハウを活用し、住民サービスの向上と経費の削減等を図ることを目的として、民間事業者等も公の施設の管理を行うことができることとした制度です(地方自治法244条の2)。「公の施設」とは、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設を指し(同法244条1項)、公園や美術館、博物館、体育館、スポーツ施設などが含まれます。例えば、京都サンガF.C.のホームスタジアムである「サンガスタジアム by KYOCERA」も、2019年12月末より、合同会社ビバ&サンガ(京都を中心にスポーツ施設を運営する株式会社ビバと、京都サンガF.C.を運営する株式会社京都パープルサンガの共同出資により設立された特定目的会社)が指定管理者に選定されています。
 この制度を活用することで、サッカークラブや関連会社が自らスタジアムの運営・管理を行うことができ、集客やサイドビジネスについての可能性が広がりました。

3.スタジアムが持つ可能性

 スポーツ庁が2016年11月に発表した「スタジアム・アリーナ改革指針」では、スタジアムの運用等において公的負担の軽減や公共性の確保に過度に比重が置かれている現状が懸念され、今後は施設そのものの収益性の向上を中長期的な収支計画に組み込んでいき、「コストセンター」から「プロフィットセンター」への転換を図ることが重要であるとしています。また、同発表では、スタジアムを《まちづくりを支える持続可能な経営資源》とするための要件として、①顧客経験価値の向上(スタジアムの臨場感や感動のほか、円滑な移動や飲食の質などを含む価値の向上)、②多様な利用シーンの実現(スポーツの試合だけでは稼働日数が限られるため様々な利用を促進する)等が挙げられています。
 ここから分かることは、スタジアムを単にコアサポーターが試合観戦ないし応援に熱中するのに適した場とするだけでなく、飲食や附属施設を含めライト層も満足できるようにし、さらにはサッカーにあまり関心がない層にもスタジアムでの別のイベント等で足を運んでもらうようにして、とにかく人が集まる場としていくことが重要であるということです。その上で、サッカーの試合も一度観てみようかという気になってもらい、スタジアムの熱狂を肌で感じてもらえれば、リピーターになってもらえるかもしれません。
 そして、スタジアムに人が集まるようになれば、地元の企業等にとっても新たなビジネスの可能性が広がり、集客の中心にあるスタジアム(ひいては試合開催日に大きな集客をもたらすサッカークラブ)に対しても好感を抱いてもらえることでしょう。地元企業等に支援・応援してもらうことで、さらにスタジアムを中心としたサッカー文化が根付いていくことと思います。
 私もサッカーが好きな1人のサポーターとして、サッカーやスタジアムを取り巻く様々なビジネスの発展に貢献していくことができればと考えています。