コラム

いよいよ施行されるフリーランス新法

2024.10.31

執筆者 弁護士 朝倉 舞

1 法律の施行

 令和6年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が施行されます。「フリーランス・事業者間取引適正化等法」と略されるこの法律(以下「フリーランス新法」といいます。)は、フリーランスと、フリーランスへ業務委託をする発注事業者との間の取引について、取引の適正化フリーランスの方が安心して働ける環境の整備を図ることを目的としてできたものです。
 働き方が多様化するなかで、フリーランスとして働く方も増えています。もっとも、フリーランスと発注事業者との間の情報の格差や交渉力の差などから、いままでの法律制度ではフリーランスの労働・契約環境が不安定であることが問題視されていました。そのため、フリーランス新法では、発注事業者(フリーランス新法では「特定業務委託事業者」「業務委託事業者」)がフリーランス(同法律では「特定受託事業者」)に対し、物品の製造(加工を含む)、情報成果物の作成、役務の提供といった「業務委託」をする場合に、発注者側が行うべきことについて定め、上記問題の解消を図っています。

2 内容の概要

 具体的な内容については、発注者側が従業員を使用しているかどうか、業務委託の期間によって変わってきます。
 例えば、従業員を使用していなくても使用していても、発注事業者はフリーランスに対して業務委託をした場合、直ちに書面などにより取引条件の明示をしないといけません(従業員を使用していない場合でも該当するので、フリーランスがフリーランスに業務委託する場合も対象となります)。
 そして、従業員を使用している発注事業者については、業務委託期間が、①1カ月未満、②1カ月以上、③6カ月以上によって、それぞれ段階的に義務内容あるいは禁止事項が加わってきます。おおまかに記載すると以下のようになります。

①の場合 ●報酬支払期日の設定・期日内の支払いをしないといけない
     ●募集情報の的確表示をしないといけない
     ●ハラスメント対策に関する体制整備をしないといけない
②の場合 ①の場合 + ●返品や買いたたきの禁止等の7つの行為の禁止
③の場合 ①②の場合 + ●妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮をしないといけない
             ●解除や更新しない場合の予告や理由開示をしないといけない

 なお、違反した場合、行政機関はその内容に応じて、報告徴収・立入検査、違反行為について助言、指導、勧告、公表、命令をすることができるとされており、命令違反及び検査拒否等に対しては罰金も定められています。

3 発注事業者は要チェック

 発注事業者の方は以下の手順をご参考に、改めて自社の取引についてご確認ください。

① まず法律の対象となる取引をしているか
 □ 具体的には当事者の確認(取引先がフリーランス新法で定める「特定受託事業者」にあたるか)
  および取引内容は業務委託かを確認
② 対象となる取引をしている場合
 □ 詳しい義務等の内容についてチェック
   フリーランス新法の詳しい内容は、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省のHP上の資料
  (リーフレット、パンフレット、Q&A等)で説明がされていますので、それらをご確認ください。                                          
 □ 社内ルール・体制の整備、社員への周知・教育、社内の業務フローの見直しや、契約書・発注書
  の見直し、支払い期日の管理方法の見直しなどについて検討

 法律の内容が分かりづらい場合、どのように見直してよいかわからないといった場合には、専門家にご相談いただくとよいかと思います。

4 おわりに

 フリーランス新法は、発注事業者側、フリーランス側のいずれにも是非知っておいていただきたい法律です。
 この法律は、すべての分野の取引に関係するものであり、例えば、個人で活動するアーティストが主流の文化芸術分野も例外ではありません。文化芸術関係者に向けては、京都文化芸術総合オフィシャルサイト KYOTO ARTBOX (https://kyoto-artbox.jp/knowledge_technique/73761/)でもフリーランス新法に関する記事を執筆していますので、ご興味のある方はそちらもご覧ください。
 法律が施行されたからといって、交渉力や情報量の差が一気になくなるわけではありませんし、フリーランスの方が発注者側に声高に「法律を守って!」と言いづらい環境は依然あると思われます。ただ、このような法律ができたということを広く知っていただき、もし発注事業者が知らない場合には、フリーランス側から法律の存在を示唆したり、守られない場合には行政に申し出るなどの方法(これもフリーランス新法に定められています)により、少しずつであっても、確実に環境が変わっていくことが期待されます。