コラム

事業承継ガイドラインが5年ぶり改訂!

2022.08.17

執筆者 弁護士 朝倉 舞

  1.  経営者の高齢化が進む昨今、中小企業において事業承継は待ったなしの状況とも言われています。事業承継の形態も、これまで中心だった親族内承継だけでなく、従業員による承継や第三者承継(M&A)も増加してきており、必ずしもこれまでの常識で事業承継の取組を進められない状況となっています。
     このような状況を受けて、現経営者、後継候補者、支援機関が事業承継の取組を着実に進められることを目的に中小企業庁により作成された「事業承継ガイドライン」が3月に第3版として改訂されました。ここではそのポイントをお伝えしたいと思います。
     まず、ガイドラインでは、

    ・事業承継に向けた早期取組の重要性(事業承継診断の実施)
    ・事業承継に向けて踏むべきステップ(準備の進め方)
    ・地域における事業承継支援体制の強化の必要性

    を中心に、事業承継の類型ごとの課題と対応策や、個人事業主の事業承継について、事業承継の円滑化のための手法やサポートの仕組み・サポート機関などについても記載されています。

  2. そして今回、主に以下の点が改定されました。

    ■ 掲載データの更新やこの間に新設/拡充された施策が反映
     法人版・個人版事業承継税制や所在不明株主の整理に係る特例等の支援措置についての説明が更新・追加され、また支援策一覧が新たに別冊としてできました。

    ■ 従業員承継・第三者承継(M&A)の説明が充実
     後継者の選定・育成プロセス(候補者との対話や教育、関係者の協力等)等の説明を充実させ、M&Aについては、令和2年3月に策定された「中小M&Aガイドライン」等の内容が反映されました。

    ■ 現経営者目線からだけではなく、後継者の目線からの説明も充実
     ガイドラインによると、事業承継の実施時期について、後継者にとっては遅いと感じている傾向にあるようです。ガイドラインでは随所に早期取り組みの重要性が唱えられており、後継者を決めてから事業承継が完了するまでの移行期間として3年以上を要する割合が半数を超えている(10年以上が11%)ことからしても、概ね経営者は60歳ころには事業承継に向けた準備に着手することが望ましいとされています。

  3.  事業承継には明確な期限がないため、差し迫った理由がなければ日々の忙しさの後回しになってしまいがちです。特に個人事業者では、突発的事情が生じるまで事業承継が検討されないままということも多いです。しかし、準備の不十分が原因で、事業承継をしても事業の継続が困難になることもあります。
     他方、事業承継によって企業の売上高や利益は成長する傾向にあるとの報告もあり、事業承継が企業にとってプラスの選択肢となる可能性を示唆しています。
     もっとも、早期にと言われても何から手を付けたらよいか…と悩まれたり、漠然とした思いで止まっている方は少なくないと思います。そういうときは、身近な弁護士等専門家・支援機関と話をするなどして、イメージを持っていただくことで、より事業を活かした円滑な承継の検討ができると思われます。
     時間的余裕があるからこそ採りうる選択肢もありますので、少しでも気になられる方は、まずはお早めにご相談してみられてはいかがでしょうか。