コラム

最近話題の「NFT取引」について

2022.03.04

執筆者 弁護士 朝倉 舞

1 NFTって?

「NFT」とは、Non-FungibleTokenの略であり、ブロックチェーン※上で発行される、デジタルトークン(証票)で、固有の値や属性を持たせることで代替性のないものです。

※ ブロックチェーンは、個々のシステム内に同一の(取引)台帳情報を同期・記録する「分散型台帳技術」と呼ばれ、一定期間の取引データをブロック単位とし、コンピューター同士で検証し合いながら正しい記録をチェーン(鎖)のようにつないで蓄積する仕組みです。


 これまで、デジタルコンテンツは、複製・改ざんが容易にでき、固有性や希少性を持たせることができませんでした。しかし、NFTの上記の特徴を活用し、デジタルコンテンツに紐づけてブロックチェーン上に保有情報や特定情報を記録して、他のデジタルデータと判別することが可能となり、デジタルコンテンツに固有性・希少性を持たせることができるようになりました。そのことで、デジタルコンテンツの資産性が上がり、デジタルコンテンツが市場での取引対象として近年躍り出ました。2021年には、海外有名オークションにて、NFTで表現したデジタルアート(以下「NFTアート」といいます。)が約75億円で落札されたとか、日本でも小学生の描いたNFTアートが100万円以上で取引されたというニュースが話題になりました。

2 注意点

  1. まず、誤解されやすいのは、NFTを利用してもデジタルコンテンツそのものが代替不可能なデータになるわけではない、ということです。

     NFTは複製防止の技術ではなく、データとその保有者を紐づけるいわばデジタル「証明書」をブロックチェーン上に記録するものです。実際は、ブロックチェーン上にはトークンIDやオーナーアドレス、トークンURIといった情報が記録され、それらは改ざんできませんが、コンテンツデータ自体はブロックチェーン外で管理保存されていることが多いです。そのため、そのデータ自体や保存方法はこれまでと変わるものではないので、コンテンツデータの複製や改ざんが防げるというわけではありません。

  2. 次に、NFTアートを譲渡するというのは、実は所有権の譲渡を指すものではありません

     民法は原則として、所有権を含む物権の客体(対象)を有体物に限定しています。NFTはデジタルトークンとして発行されたデータであり、「有体物」ではないので、所有権は観念できないということになります。

     では著作権の譲渡にあたるのでしょうか。必すしもそうといえません。(取引当事者の意思解釈によりますが、)どちらかというと「NFTと結びついているデジタルアートを利用する権利」の譲渡と考えるのが一般的です。

     では、この権利の中身は何でしょうか。著作権法上の支分権(複製権や譲渡権等)の対象となる行為を行う権利(利用許諾を受ける権利)とイコールなのでしょうか。これについては、当該NFTが流通しているNFTプラットフォームの利用規約に、NFTの譲渡に際してどういう権利が譲渡されるか定められていたり(例えば「デジタルコンテンツを閲覧・視聴する権利」といった、支分権でない権利もありえます)、またNFTアートのコンテンツの内容・性質によっても変わってきますので一概にはいえません。

  3. 契約内容が大事

     このように、一口に「NFTアートをNFTマーケットで譲渡する」といっても、所有権や著作権の譲渡ではなく、「当該NFTアートを契約に基づいて利用できる地位が譲渡される」ということを指します。「契約に基づいて」というとおり、その内容は契約の内容にかかってきますので、対象となるNFTアートについてどのような権利が認められるのか、その取引ではどういう権利が取引されているのかなど、予め利用規約や契約の中身をチェック・理解したうえで取引されることが重要です。