コラム
オンラインサービス利用規約に関する裁判例のご紹介
事案の概要
適格消費者団体Xが、株式会社Yに対し、Yが運営するポータルサイト「モバゲー(以下「A」とします。)」のサービス提供契約に関するA会員規約(以下「本件規約」といいます。)の条項が、消費者契約法(以下「法」といいます。)8条1項により無効となる不当条項に該当するとして、当該条項を含む契約の申込み・承諾の意思表示の停止等を求めた事案です。
問題となったのは本件規約の7条3項と12条4項ですが、今回は7条3項についての判断の概要をご紹介します。
原判決(さいたま地判令和2年2月5日判時2458号84頁)
事業者に消費者契約の内容が明確かつ平易なものとなるよう配慮する努力義務がある(法3条1項)ことや、差止請求制度が紛争の未然/拡大防止を目的としたものであることから
① 差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面において複数の解釈の可能性が認められる場合に、
② 事業者が当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれるなど、当該条項が免責条項などの不当条項として機能することになると認められるときは、法12条3項の適用上、不当条項に該当する。
→ 本件規約7条1項c号e号につき①を認定。そして、7条3項について、「当社の措置により」という文言以上の限定が付されていないとして、1項C号e号との関係において、①を認め、またYの対応等から②も認められ、不当条項に該当と判断。同条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の停止等を認めました。
本判決(東京高判令和2年11月5日)...原判決を基本的に維持
原判決後、Yは本件規約7条1項c号e号に「合理的に」との文言を加えました。
しかし、本判決は、Yは「合理的な判断」を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観的には合理性がなく会員への不法行為又は債務不履行となるような会員資格取消措置等を「合理的な判断」として行う可能性が十分にあり得るが、会員である消費者において、当該措置が「合理的な判断」に基づかないか否かを明確に判断することは著しく困難として、1項各号の不明確性の判断を維持。7条3項が「一切損害を賠償しません」と例外を認めていないことにも触れ、①の判断を踏襲します。
また、「合理的に判断した」の意味内容は極めて不明確で、Yが「合理的な」判断をしたつもりでも、客観的には当該措置等がYの債務不履行等を構成することは十分にあり得、そのような場合でも、Yは7条3項により損害賠償義務が全部免除されると主張し得るとして、同項が免責条項として機能することを認めます。
Yからは、㋐Yが客観的に損害賠償責任を負う場合には7条3項により免責されない、㋑合理的な限定解釈をすれば不当条項にならないといった主張もなされました。
これに対して本判決は、㋐→事業者と消費者には情報量・交渉力等に差があるなかで、事業者がした判断が、契約の履行の場面できちんと是正されるのが通常と言い難いことから、かかる主張は最終的な訴訟で争われる場面では妥当しても、不当条項の解釈としては失当。㋑→法3条1項1号の趣旨から、不当条項性を否定する方向で、限定解釈することは極力控えるのが相当、と退けました。
本件は、サービス内容や他の条項との関係、運用も含めて検討されており、利用規約に同内容の文言が含まれているから一律にアウトということではありませんが、利用規約の条項が消費者契約法により無効となる場合の考え方として、今後の参考になるものです。実務における利用規約の規定や運用について、消費者の予測可能性等も考慮の上、改めて見直し、ご検討いただくことをおすすめします。