コラム
三代弁護士に聞く ─ ディベート仕込みの「聴く・備える・伝える」力
人事労務と相続案件に力を注ぐ三代昌典弁護士。高校時代の競技ディベートと大学時代のゼミで鍛えたのは、相手の反論を先読みし、迎え撃つ準備を整える思考法です。所内でも、反論と再反論を即座にシミュレーションするスピード、見通しを示しながら選択肢をわかりやすく伝える力に定評があります。以前、三代弁護士のコラム「ディベート甲子園の記憶~労働法制について~」をお届けしたことがありますが、本インタビューではそうした力がどのように育まれたのかを辿ります。
Interviewee 三代昌典弁護士
三代昌典弁護士 プロフィール
京都市生まれ、滋賀育ち。2006年に滋賀県立膳所高校に入学し、弁論班に所属。卒業後、京都大学法学部へ進学し、山本敬三ゼミで研鑽を積む。京都大学法科大学院を経て、2017年に弁護士登録(大阪)。2022年当事務所入所、2023年パートナー就任。経営法曹会議や、京都サンガF.C.のサポートカンパニーBなど、幅広く活動中。
Ⅰ 高校時代―競技ディベート
─── 高校でディベート部に入った経緯を教えてください。
滋賀県立膳所高校に入学し、最初はサッカーが好きなので、サッカー部も考えましたが、見学すると経験者ばかりで私にはレベルが高すぎました。
そこで弁論班(ディベート部)の存在を知り、ほぼ全員が高校からディベートを始めるためスタートラインが同じこと、中学生の頃から意識していた弁護士の仕事にも近いことから興味を持ち、入部しました。
私たちが取り組んでいたのは「競技ディベート」というもので、高校3年生のときには「労働者派遣を禁止すべきか」をテーマに行われたディベート甲子園(全国大会)へ出場し、決勝トーナメントにも進出しました。討論テーマから労働法への関心が高まり、弁護士となった後に人事労務に注力するきっかけにもなりました。
─── 競技ディベートではどのような力が育まれましたか。
競技ディベートは、一つの論題について賛成・反対に分かれて立論し、相手の主張への反論を行い、最終的にどちらの主張がより説得的かを審判が判断する競技です。ディベートは「相手を言い負かした方が勝ち」と誤解されることもありますが、実際には議論を通じて、対戦相手ではなく第三者を説得するためのものです。
審判を説得するには、個人的な考えだけでは不十分で、文献の引用など証拠資料を示す徹底したリサーチが求められます。予想される相手の主張や反論への対策も事前に行うため、結局は両方の立場で考え得る主張をすべて洗い出すことになります。ここで賛否両論を用意しておく作業が、相手の一手を先読みして迎え撃つ準備を整える力の原型になりました。また、ナンバリングやサインポスティング(どの論点への反論かを明示)といったディベート技法を通じて、論点を整理し、論旨を明確化する訓練を受けました。
競技ディベートで培われた力
・聴 く:相手の立論を正確に把握する
・備える:賛否両論を先読みし資料をそろえる
・伝える:証拠を引き、論旨を整理して提示
Ⅱ 大学時代―山本敬三ゼミ
─── 大学時代のゼミについて教えてください。
高校卒業後は、京都大学法学部に入学しました。3年生からゼミが始まり、私は、民法の山本敬三教授のゼミを選択したのですが、このゼミには学問に真摯に取り組む学生が集まっていて、私もその中で学問を深めたいという気持ちが強まりました。
─── 山本敬三ゼミで得た学びは何ですか。
ゼミの発表では、教授やゼミの仲間からの厳しい質問や指摘に耐えられるだけの十分な準備が必要でした。情報の裏付けと理論の深さを重視する姿勢が徹底され、じっくりリサーチし深く考える力が養われました。
また、法律を学ぶ以上に、多様な主張を想定することや階層構造で整理する訓練が重要であることを学びました。「階層」「レイヤー」を意識した論理構築を徹底的に鍛えられた経験は、現在の法律実務にも大きく生きていると感じます。
大学ゼミで磨かれた力
・聴 く:鋭い質問に耳を澄ませる
・備える:階層構造で論理を組み上げる
・伝える:裏付けとロジックで説得する
Ⅲ 実務にて──三つの力を活かす
─── 実務で特に役立つ点は? 大切にしている点は?
事実を時系列で整理し、当事者それぞれが取り得る主張をすべて洗い出し、相手が次に出してくるであろうカードを想定し、複数の対応シナリオを準備するということについては、ディベート部や大学のゼミで叩き込まれた多角的な視点での徹底したシミュレーションが、そのまま生きていると感じています。
一方で、実務では、法律相談などで、事実関係や問題点を把握するところから始まりますから、依頼者の思いや事実を丁寧に聴き取ることが大事だと思っています。
また、シミュレーションを事案解決に生かすために、依頼者の皆様に、見通しと選択肢を明快にお示しすることも大切にしています。
─── 人事労務分野や相続分野に注力する理由は?
どちらも人間関係が濃く、様々な立場の関係者がいたり、利害関係が絡み合いやすいため、多角的な視点によるシミュレーションが役立つ分野で、面白いと感じています。
また、問題が発生する前に先回りして予防的対応を行えば、リスクを未然に防ぐことにもつながるので、その点もやりがいを感じます。
─── 備える力をまさに紛争予防に生かすのですね。
はい。そのため、人事労務分野では、使用者側のサポートに力を入れ、ハラスメント研修やコンプライアンス研修を積極的に行っています。研修をきっかけに管理職や従業員の意識が変わり、早期相談を頂くことで有事の前に対応できたケースもありました。
また、相続案件でも、冷静に法律的視点で問題を整理して、厳しい見通しであってもそれを率直に伝え、予想される相手の主張も説明したうえで、それをどう上回るかを一緒に考えています。紛争予防に重要な「遺留分」に関してはWEBコラムでの連載を予定しており(連載初回「遺留分制度について」はWEB掲載済)、その知識を広めることにも力を入れていきたいです。
実務で大切にしていること
・聴 く:依頼者の想いと事実を丁寧に聴取
・備える:シミュレーションで先手を打つ
・伝える:見通しと選択肢を明快に提示
─── 今後の抱負を教えてください。
引き続き人事労務と相続の分野で専門性を磨きながら、弁護士として多角的な分野で活動し、訴訟や交渉、予防法務といった様々な選択肢を効果的に提供することで、依頼者の方にとってより価値のあるアドバイザーであり続けたいと思っています。