コラム

大江美香弁護士インタビュー「ボーダレスなリーガルサービスを目指して」

2024.04.05

執筆者 弁護士法人古家野法律事務所


現在のように、人、モノ、情報が国境を超えてボーダレスに行き交う世界では、環境保護、人権尊重、平和維持をはじめ、さまざまな観点で国際的な視点が欠かせません。ビジネスの世界では、国際基準の遵守が成長と安定に必須の要素ですし、地域社会においても、多様な文化を理解し、協力し合うことが、持続可能な未来に向けての鍵となっています。

当事務所では、国際化・多文化共生に貢献すべく様々な案件に取り組んでいます。以下では、国際分野に注力している大江美香弁護士を、インタビュー形式でご紹介いたします。

Interviewee 大江美香弁護士

<略歴> 神戸市生まれ。中学3年間をアメリカ・コロラド州で過ごした後、神戸女学院高等部、同志社大学法学部を卒業。関西学院大学法科大学院入学後に渡米し、アメリカン大学ロースクールでLL.M.を取得。大学院修了後、2017年に弁護士登録(京都)。企業内弁護士を経て、2019年に当事務所入所、2021年から当事務所パートナー。

───中学時代のアメリカ生活で印象に残っていることは?

小学6年の夏から中学3年の夏までの3年間、父の仕事の都合で、アメリカ・コロラド州のデンバーに住んでいました。中西部のロッキー山脈の麓の山岳部の街で、日本人はほとんどおらず、空気も薄くて乾燥していて、海も遠いという、日本とは全く異なる環境に、当初は戸惑いや驚きの連続でした。

現地のミドルスクール(6~8年次)に通いましたが、渡米時には英語が全くできなかったので、英語を聞き取れるようになるまでが特に大変でした。

今振り返ると、思春期の多感な時期に、何不自由のない日本での生活から一転して、言葉が不自由な環境に置かれ、マイノリティの立場となったことは、とても貴重な経験でした。関係構築のためのコミュニケーションや自己主張の重要性を学びましたし、今でも困難な立場にある方々の気持ちを理解する助けになっていると感じます。

───帰国して、日本の高校に通った後、大学法学部、法科大学院へと進学しています。法曹を目指した理由は?

高校生の頃、人の悩みに向き合い、力になれる学問として、心理学に興味を持ち、当時通っていた神戸女学院高等部に来られていたスクールカウンセラーの先生に仕事内容について聞いてみたところ、「人の悩みを聞いて解決に導くことができるやりがいのある仕事である一方で、能動的に動いて根本の原因を解決することができないことにもどかしさを感じることがある。人の相談に乗って、問題を解決できるという点では、弁護士もよいのではないか」と勧められたのが、法曹に興味を持ったきっかけです。

当時はちょうどロースクール制度が始まる頃で、話題になっていたこともあり、目指してみることにしました。

───法科大学院時代にアメリカのロースクールに留学していますね。留学のきっかけや学んだことは?

法科大学院に留学制度があったので、今度は自分の意思で渡米して学んでこようと思い、2011~2012年の1年間、ワシントンD.C.のアメリカン大学ロースクールLL.M.に留学し、国際人権法を専攻しました。世界中に友人ができ、視野が大きく広がる経験となりました。

当時は、国連の人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が合意され、ビジネスの場では国だけではなく国際企業にも人権尊重の責任があるという議論が活発化し始めた頃でした。人権といえば主に、対国家の関係で問題になるものだという認識でいたので、企業のビジネス活動においても人権法の考え方を適用すべきだという考えは新鮮でしたし、学んだ知識を日本での実務活動に生かせるのではと考えるようになりました。

───留学した経験はキャリアに影響を与えましたか?

留学中に様々な弁護士の方に会って話をする機会があり、アメリカでは弁護士が担当する仕事の幅がとても広いのと同時に、個々の弁護士が専門分野に特化していることが印象的でした。留学以前は、日本で弁護士になったら町の法律事務所で勤務するイメージを持っていましたが、留学中に学んだことを活かして、世界で活躍する日本企業を支援したいと考えるようになり、帰国して司法試験に合格した後は、企業内弁護士としてキャリアをスタートしました。

企業では、多くの英文契約書を担当する機会に恵まれたほか、内部通報窓口の整備やサプライチェーン上の人権侵害リスクについて検討する機会もあり、人権法の知識が必要とされる場面は意外に多いと感じました。法務だけではなく内部監査などの仕事も担当し、経営層に近い場所でビジネス判断の在り方を学ぶことができたことは、現在、事務所の弁護士としてビジネスをお手伝いする際にも活かされています。

組織の中で働く企業内弁護士の仕事も魅力的でしたが、その一方で、目の前の方の悩みに向き合い、力になる仕事への思いも強くなりました。日本では、個々の弁護士の守備範囲の広さが、それぞれの弁護士の問題解決力を高めていることにも気づき、企業法務だけではなく、民事・刑事事件を含めて一度は幅広くいろいろな事件を経験するべきではないかと考えて、弁護士事務所への転職を決めました。

───法律事務所における現在の業務で、注力している分野は?

まずは、海外とのビジネスに関する案件です。日本の会社同士なら、事前に契約書が締結されていなくても信頼関係で取引が続いているということが多く、何か問題が起きても話し合って丸く収めることができたりもしますが、海外との取引ではそうはいきません。海外との取引のあるお客様には、日頃から、契約の重要性や外国法の知識について知っていただくように努めています。弁護士としては、外国法のリサーチをしたり、日本法と外国法を比較法的に説明する際に、留学中に学んだ知識が役立っていると感じています。

次に、ハラスメント問題への対応や内部通報制度や就業規則等の社内体制の整備などコンプライアンス関係の案件です。女性、性的マイノリティ、外国人、障害者、高齢者など様々な属性の人の人権を尊重し、多様な価値観・経験を有する人が相互に協力して能力を最大限に発揮できる環境を整えることが、企業の競争力を強化することにつながると考えています。

京都は、日本ならではの技術や製品を扱う企業が多いですし、観光客の増加に伴い、ビジネスの機会も増えています。外国法や国際人権法の知識や視点を生かして、今後も日本企業の発展を支えていきたいです。

───家族・相続法分野の国際案件にも取り組んでいますか?

はい、ご紹介を通じて、外国籍の方や外国籍の家族を持つ方から、離婚事件や相続案件のご相談を受けることが最近増えています。京都には、各種の外国人学校もあって、国際結婚のカップルも多いと感じています。

親族関係の事件では、当事者間の話し合いが重要になりますので、心情への配慮や海外の生活習慣などをふまえた細やかな対応が必要になることがありますが、そうした際に過去の海外経験が生きていると感じます。

また、英語で相談対応できますので、英語圏の依頼者の方からは、言葉の不自由を感じることなくご相談をいただいています。私自身の経験からも、「相談したいことがあるのにうまく伝えられない」というストレスを軽減できるのは、大きなメリットだと思います。

───これからどんなことに取り組んでいきたいですか?

人、モノ、情報がボーダレスに行き交う社会の接点を支えながら、より良い世界をつくっていくことに貢献できる弁護士でありたいです。

欧州では、企業に対して、環境・人権に関するデューデリジェンスの義務化の検討が進んでおり、これは今後日本の企業にも直接影響を与える可能性があります。また、このように欧米で採用される人権に関する新しい制度や考え方は、数年遅れて日本でも導入される傾向がありますので、ビジネスの分野においては、海外の議論にも注目しつつ、ご相談いただく企業のお力になれるように勉強をしていきたいです。

また、セミナー等を通じて、こうした国際的な視点を伝える活動にも積極的に取り組んでいきたいと思っています。

 

国際分野のいろいろな法律問題に対応いたします
国際法務全般、英文契約書のリーガルチェック、各種法文書の翻訳、
海外勤務や外国人雇用に関するご相談、国際人権に関するご相談や研修講師のご依頼、
国際離婚・子の引き渡し(ハーグ条約)、国際相続 等
海外からのオンラインでのご相談も可能です。お気軽にご相談ください。