コラム

外国人の子どもたちと「ともに学び、ともに育つ」教育を

2024.03.29

執筆者 弁護士 古家野 晶子

1 定住外国人の子どもたちが増えています

 少子高齢化・人口減少が進むなか、日本社会の外国人労働者への依存度は年々高まり、すでに多様な国籍の労働者とその家族が日本で暮らしています。学齢期の外国人の子どもたちの数も増え、文科省の調査によると、2022年5月の時点で住民基本台帳に登録されていた学齢相当の外国人の子どもは約13万7000人(小学生約9万6000人、中学生約4万1000人)いるそうです。
 こうした外国人の子どもたちの教育を受ける権利はどのように保障されているのでしょうか。

2 外国人の子どもたちの「教育を受ける権利」

 憲法26条1項は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」とし、2項において、すべての国民に対し、その保護する子女に「普通教育を受けさせる義務」を課していますが、いずれも「国民」を対象とした規定で、義務教育について定めた教育基本法5条でも同様です。
 外国人については、日本が批准している国際人権規約等の定めによります。社会権規約13条が、国民・外国人の区別なく、すべての人の教育を受ける権利を保障し、子どもの権利条約28 条も、18 歳未満のすべての子どもの教育を受ける権利を保障し、いずれも初等教育は義務的で無償なものと規定しています。
 そこで、日本の公立の小学校、中学校等では、入学を希望する外国人の子どもを無償で受け入れ、教科書の無償配付や就学援助を含め、日本人と同一の教育を受ける機会を保障しています。

3 外国人の子どもたちの「不就学」問題

 もっとも、「国民」のために用意された義務教育において、「希望があれば」外国人の子どもたちも無償で受け入れるというだけでは、特に日本語を母語としない外国人の子どもたちにとって、全く十分ではありません。
 日本語は、世界の言語の中でも難解な部類に属し、日常会話が分かるようになるまでに2~3年、学習言語が理解できるようになるまでに5~7年程度かかると言われています。長期にわたり十分な日本語指導が得られないと、学校での学習を進めることが困難です。
 また、外国人には就学義務がないとされているために、自治体において就学状況の把握がされず、案内不足等で入学の機会を逃す問題のほか、保護者が就学を「希望」しなかった場合や一旦就学したものの登校をやめてしまった場合に、子どもたちに必要な支援が届かないという問題もあります。
 上記の文科省の調査では、学齢相当の外国人のうち約8000人が、どこの学校にも通っていないか、就学状況がわからない状態とのことで、貧困の連鎖が心配されます。

4 教育の場から共生社会の実現を

 「不就学」は、外国人の子どもたちのその後の進路や職業の選択肢に大きな影響を与えます。縁あって日本で育つ外国人の子どもたちが、明るい未来を思い描くことができないようであれば、この国の未来も明るくはならないように思います。
 外国人の子どもの存在は、日本人の子どもたちにとっても、多様な文化や考え方を知り、ボーダレスな世界を身近に感じることのできる絶好の機会となります。
 日本の教育は、これまで同年齢からなる同質性の高い教室空間で行われてきましたが、その空間を、人間の多様性を尊重しあい、国籍や人種、宗教、性差、経済状況、障害の有無によらず、「ともに学び、ともに育つ」ことのできるインクルーシブな場に転換できれば、私たちの未来も開かれていくのではないかと思います。そうした学びの場の実現を目指して、大人同士、知恵を出し合い、協力しあいたいものです。