コラム

子どもと選挙

2022.08.17

執筆者 弁護士 古家野 晶子

未成年者と選挙

 夏の参院選が終わりました。今春、民法の「成年」が20歳から18歳に引き下げられましたが、先行して2016年に選挙権年齢が18歳に引下げられた際、選挙人に同行して投票所に入ることができる子どもの範囲が「幼児」から「18歳未満の者」に拡大されたのをご存知でしょうか。子どもを投票所に連れて行くことで、家庭で選挙や投票に関することが話題になるなど将来の有権者への有効な選挙啓発につながることが期待されたものです。
 もっとも、私自身は子どもと一緒に投票所に行き大人だけが投票用紙をもらって投票することで、子どもたちも社会の重要な構成員であるのに、18年間も投票できないのだな、と改めて気づかされました。せめて私自身の投票を通じて、子ども世代の利益を考えた選択をしたいとは思うものの、私の一票にその思いを込めたところで全く足りた気がしない、とも思いました。そもそも子どもには選挙権を与えないでよいものでしょうか?

ゼロ歳選挙権

 日本国憲法15条3項には「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。」とあり、成年者についてのみ選挙権が憲法上保障されています。ですから、未成年者に選挙権を与えなくても憲法上の問題にはならなさそうです。

 もっとも、現在の憲法に定めがなくても、新たに憲法に盛り込むことは可能です。ハンガリーでは、2011年の新憲法の制定過程で、与党から、将来世代の利益保護のために、未成年者の子をもつ母親に追加で1票を与える内容の憲法草案が提出されたそうです。

 選挙権年齢未満の子どもに選挙権を付与し、その選挙権を子どもの親が行使するという投票方法は、提唱した人口学者の名前をとって「デーメニ投票」と呼ばれ、日本でも「ゼロ歳選挙権」として話題になったことがあります。ハンガリーでは結局、野党の批判や有権者の反対多数で新憲法に盛り込まれなかったそうですが、昔は女性についても当たり前のように選挙権がなかったのですから、子どもの選挙権について議論することには大きな意味がありそうです。

成年被後見人と選挙権

 もう一つの疑問は、子どもの成長には個人差があるのに、18歳になるまで一律に選挙権が与えられないということでよいのだろうかという点です。

 実は、成年者であっても成年被後見人については、つい数年前まで、公職選挙法の規定で一律に選挙権がないものとされていました。成年被後見人というのは、精神上の障害により判断能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人のことです。

 上記の公職選挙法の規定は2013年3月14日の東京地裁の判決で違憲無効と判断されました。判決は、「成年被後見人とされた者の中にも、選挙権を行使するに必要な判断能力を有する者が少なからず含まれている」「選挙権を行使するに足る能力を欠く者を選挙から排除するという目的のために、制度趣旨が異なる成年後見制度を借用せずに端的にそのような規定を設けて運用することも可能であると解されるから、そのような目的のために成年被後見人から選挙権を一律に剥奪する規定を設けることを(中略)許容することはできない」としました。その直後に法改正がなされ、2013年7月から成年被後見人の選挙権が回復しました。

 18歳未満の者についても、一律に「選挙権を行使するに足る能力を欠く」というわけではないという点で上記判決は参考になります。一定の条件のもとで未成年者に選挙権を認めることがあってもよさそうです。

持続可能な政治

 少子高齢化社会のもと、世代間における1票の格差の拡大が指摘されていますが、この社会にはこれから生まれくる人たちも大いに利害関係があります。将来世代も含めてどのように持続可能な社会を運営していくのかというのはとても大きな課題だと思います。