コラム

男性の育休取得が当たり前になる社会へ

2021.02.20

執筆者 弁護士 古家野 晶子

 子どものいる夫婦の離婚事件で、夫婦の過去を紐解いていくと、出産前後に決定的な亀裂が入ったというケースに数多く出会います。不貞行為のあるケースは論外として、妻からは、育児の大変なときに夫が頼りにならなかった、心ない言動に深く傷ついた、育児の悩みを理解してもらえなかった、という話をよく聞きます。夫にも言い分はあるのでしょうが、誕生したばかりの新しい命を前に、残念な展開です。

 チンパンジーと人間は進化の過程で約700万年前に分かれたらしいのですが、5年ほどかけて一人の子を育て上げてから次の子を産むチンパンジーに対し、人間は、毎年子どもを産めるようになる代わりに、母親以外の仲間が関与して「みんなで」子育てするように進化したそうです。産後の母親はホルモンの影響で、周囲とつながらないと不安や孤独を感じやすいということも言われています。

 人間が、長い期間をかけて、「子どもたち」を「みんなで育てる」というスタイルで進化してきたことを考えれば、核家族のもとで母親にワンオペ育児を強いるあり方は、持続可能なモデルではないのでしょう。
 パートナーである父親と母親が協力し合って、周囲の助けも得ながら子育てに従事できる環境の整備が、家庭内不和の予防のためにも、少子化阻止のためにも、何より子どもたちの健やかな成長のためにも、重要であるに違いありません。

 そのために、まずは、男性の育休取得が当たり前になるといいのではないかと思っています。
 子育ては一大プロジェクトです。第一子のときは、夫婦揃って初めてとなる育児を分かち合うことがその後の家族のあり方に大きな影響を与えるでしょう。
 実家等の援助が得にくい家庭では特に、産後の時期、慣らし保育の間、第二子以降の出産前後など、男性育休が必要となる場面は多いと思います。

 日本の育休制度は、諸外国との比較でも遜色ない内容ですが、活用が進まないことが課題です。業務との調整をはかりながら、もっと柔軟に使われてほしいという思いから、以下、制度のポイントをご紹介します。

1.育休は、子が生まれてから原則として子が1歳に達するまでの間(父母共に育休取得の場合は1歳2か月(パパママ育休プラス)、一定の場合は最長2歳)取得できますが、取得日数は自由です。

2.育休中は、雇用保険から最高で月額67%の育児休業給付金が支給され、社会保険料も免除されるため、大雑把に言えば8割程度の手取りが得られます。

3.育休中も、労使の合意により、子の養育をする必要がない期間に限り、一時的・臨時的に就労することができます(半育休などといわれます)。就労が月10日(10日を超える場合は80時間)以下であれば、原則育児休業給付金が支給されます。

4.育休取得の回数は、原則1回ですが、1度目の育休を妻の産休中に取得した場合のみ、例外的に上記1の期間内で2度目の育休が取得できます(パパ育休)。

5.育児休業等の申出・取得等を理由とする解雇その他の不利益取扱いは禁止されています。また、使用者には、育児休業等に関するハラスメントの防止措置義務もあります。

6. 法定の制度なので、職場が制度を整備していなくても取得できます。

7.契約社員も一定の要件を満たせば取得できます。

8.妻が育児休業中でも、専業主婦でも取得できます。

 今国会では、子どもが生まれてから8週間以内に合計4週間の休みを2回に分けて取得できるようにするなど、男性の育休取得促進のための法改正案が提出される予定とのことです。そちらもぜひご注目ください。