コラム

正規社員と非正規社員の待遇差の点検を~最判平成30年6月1日をふまえて~

2018.08.30

執筆者 弁護士 古家野 晶子

非正規労働者は全雇用者の40%に達し、正規労働者と非正規労働者の所得格差が社会問題となっています。
この問題に関しては、すでに、有期労働については労働契約法20条、パート労働についてはパート法8条と9条において、均等・均衡待遇のルールが規定され、これまでにも様々な下級審裁判例がありました。
そしてついに、本年6月1日、労働契約法20条に関する2つの最高裁判決が下されました。定年前の有期労働についてハマキョウレックス事件と、定年後再雇用についての長澤運輸事件です。いずれも複数の手当の待遇差が不合理と判断され、大きなニュースとなりました。

また、6月29日には、働き方改革推進法が成立し、現パート法が名称変更して、有期労働も含めて均等・均衡待遇のルールが統一的に規定されるとととなり(パート有期法8条・9条)、労働契約法20条は廃止されることになりました。
同時に、事業主には、非正規労働者に対し、待遇差の理由や不合理な待遇の禁止等を説明する義務が新設されました。
この関係の施行日は、大企業は来年4月1日、中小企業は再来年4月1日です。

最高裁によってルールが明確化されたこと、法改正で事業主に待遇差の理由等の説明義務が課されたことは、特に、職務の内容や配置の変更が限定的なものとなりがちな中小企業に大きなインパクトを与えるものです。
そこで、ここでは、ごく簡単に、均等・均衡待遇のルールの内容をご紹介します。

【1】均等待遇ルール(新・パート有期法9条)

均等待遇ルールとは、「差別的取扱いの禁止」のことで、等しい待遇を求めるものです。
具体的には、「通常の労働者と同視すべきパート労働者又は有期労働者については、パート労働者又は有期労働者であることを理由として、待遇差を設けてはならない」というものです。

  1. 職務の内容(=業務の内容+責任の程度)
  2. 職務の内容及び配置の変更の範囲

の2点について、通常の労働者(実態が最も近い無期フルタイム労働者)と違いがなければ、通常の労働者と同視すべきと判断されます。
その場合には、パート労働の場合は労働時間、有期労働の場合は期間の定めを除く、すべての待遇を同じにしなければなりません。

【2】均衡待遇ルール(新・パート有期法8条)

均衡待遇ルールとは、「不合理な待遇の禁止」のことで、バランスのとれた待遇を求めるものです。上記の均等待遇ルールの適用がない場合に、均衡待遇ルールが問題となります。
具体的なルールは、

待遇のそれぞれについて、通常の労働者の待遇との相違が、

  1. 職務の内容、
  2. 職務の内容及び配置の変更の範囲、
  3. その他の事情

のうち、当該待遇の性質・目的に照らして適切と思われるものを考慮して、不合理なものであってはならない

というものです。

ポイントは、個々の待遇の個別比較が原則であることです。例えば、個別比較の際に他の賃金項目との関連を考慮することはありますが、賃金総額を比較して不合理かどうかを判断することはしません。
なお、定年後再雇用者であることは「その他の事情」として考慮要素になりうることが長澤運輸事件で示されました。

待遇差についてわかりやすい説明がなされることは、処遇の公平性・納得性を高め、従業員満足にもつながります。
以上の判断枠組みはすでに生きておりますので、できるだけ早期に、少なくとも待遇差の説明義務が課される前に、正規社員と非正規社員の待遇差を点検し、対応方針を検討されるととをおすすめします。

個別具体的にはどうぞご相談ください。