1.性はグラデーション

 今年4月に、厚生労働省が新しい履歴書のモデルとして、性別欄から「男・女」の選択肢をなくし、任意記載に変更した履歴書様式例を発表しました。これは、生まれた時のからだの性と異なる性を自認する性同一性障害を含むトランスジェンダーの人々から、性別欄を削除する要望を受けて対応したものです。

 近年、日本においても、性別は「男」か「女」かの二択ではなく、グラデーションのようなものだという考え方が広まってきました。人にはそれぞれ、からだの性、こころの性、好きになる性の3つがあると言われており、これらの組み合わせがあることを考えると、人の性が多様であることを実感していただけるのではないでしょうか。もっとも、この考え方も社会状況や文化によって変わるものであり、性の理解自体、時代により変遷してきたものです。

 性別は、生まれながらに決まり、本人の意思によって決められるものではありません。憲法14条も性別による差別を明文で禁止しています。
 その一方で、日本で性別を変更するためには、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」「他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること」という手術要件があり、身体的、心理的、経済的に負担の大きい性別適合手術が必須となっています。そのため、からだの性とこころの性を一致させることができす、日常生活における様々な場面で悩み苦しんでいる人がいるという現状があります。

2.注目の裁判例-経産省トイレ制限事件

 性別に基づく差別や合理的な配慮について、注目されている裁判があります。

(1)事案の概要

 性同一性障害と診断され、自認する性である女性として生活している経済産業省の職員が、自分の部署のフロアとその上下1階の女性用トイレの使用を禁止された措置(トイレの使用制限)は不当な差別だと国に対して処遇改善や損害賠償を求めました。

(2)東京地裁判決(2019年12月12日)

 東京地裁は、「個人が自認する性別に即した社会生活を送ることは、重要な法的利益であり、国家賠償法上も保護される」とした上で、トイレは日常的に必ず使用しなければいけない施設であり、経産省の原告への対応は「重要な法的利益を制約する」ものだと判断し、「直ちにトイレの使用制限が許容されるものではなく、具体的な事清や社会的状況の変化を踏まえて判断すべきだ」として、トイレの使用制限は正当化できない違法な対応であると判断するとともに、経産省の職員らによる原告に対する発言等の一部についても違法と判断し、トイレの使用制限措置を取り消すとともに国に対して132万円の賠償を命じました。

(3)東京高裁判決(2021年5月27日)

 しかし、東京高裁は、上司の「なかなか手術を受けないんだったら、もう男に戻ってはどうか」という発言は違法であると判断したものの、トイレの使用制限については「経産省としては、他の職員の性的羞恥心や性的不安などの性的利益を考慮し、原告を含む全職員にとっての適切な職場環境を構築する責任を負っている」ため、民間企業のように事業主の判断だけでは動けない経産省が使用制限を決めたことに裁量権逸脱・濫用はないと判断しました。

 地裁と高裁の判断が分かれており、今後の最高裁での判断が待たれますが、社会における偏見や差別がなくなり、すべての性別の人がありのままで尊重される、より生きやすい社会になることを望みます。

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