コラム

遺留分制度について

2023.02.20

執筆者 弁護士 三代 昌典

1.はじめに

 今回は、私が積極的に取り組んでいる「遺留分侵害額請求」についてご紹介します。遺留分制度は奥が深いため、今回は制度の存在理由などの導入部分のみとなりますが、今後も事務所ホームページのコラムなどで発信を続けていく予定です。
なお、これは宣伝になりますが、当事務所は遺留分に注力している事務所として『相続弁護士ナビ』にも掲載いただいておりますので、そちらもご参照ください(https://souzoku-pro.info/offices/kyoto/kyotofu-kyotoshi/1055/)。

2.遺留分とは何か?

 遺留分とは、被相続人が遺言や生前贈与等により相続財産を処分した場合でも、相続人に対して最低限保障されている利益をいいます。簡単に言うと、例えば被相続人(亡くなった人)が遺言書を作成していて、その遺言書で「遺産は全て長男Aに相続させる」と書かれていたとしても、他の相続人である長女Bは、遺産の一部に相当するお金をAに対して請求できる、という制度です。

【ミニコラム① :遺留分とは何か?】
 法改正前に出版された権威ある文献では、「わが民法における遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)に法律上留保することを保障された相続財産の一部をいう。」と書かれていました。この定義は、相続財産の一部が相続人に留保されている(つまり遺贈等がされた相続財産の一部そのものを取り戻せる)という、法改正前の「遺留分減殺請求権」だった時代のものです。
これに対し、現行法の「遺留分侵害額請求権」は、遺留分を侵害する遺贈等の効力を否定するものではなく、単に、遺留分侵害額に応じた金銭債権が遺留分権利者に保障されるに過ぎません。そこで、本法律コラムでは上記のように定義しています。

3.遺留分という制度が存在する理由

 (1)  遺産の処分に関する3つの考え方
 そもそも、被相続人の財産である以上、それを被相続人が生前贈与や遺言によってどう処分しようと勝手ではないか、という考え方も十分成り立ちます。実際、被相続人の財産処分の自由について、大きく分けて以下の3つの考え方があり得るところ、日本法は概ね③の考え方に立脚しているといえます。
  ① 被相続人が相続財産の全てを遺贈等により自由に処分できるという立場
  ② 相続財産について処分を禁止し、全て相続人に取得させる立場
  ③ 基本的に被相続人による相続財産の処分の自由を認めつつ、相続財産の一部について相続人が 確保できるようにする立場
 (2)  遺留分が保障される趣旨
 では、なぜ相続財産の一部が相続人に保障されるのでしょうか。一般的には、相続人に「遺留分」というものが保障された趣旨として、①残された相続人の生活保障、②遺産の形成に貢献した相続人が有する潜在的持分の清算などが挙げられています。

【ミニコラム②: 遺留分制度の現代的意義?】
 遺留分制度の趣旨について、一般的には上記①②が挙げられますが、はたして現代社会の実態に即しているのでしょうか。例えば、昨今の高齢化社会では、相続発生時には相続人である子も経済的に自立している場合が多く、子の生活保障の役割を遺留分に求めるのが適切かという問題があります。また、遺産の形成への貢献度は千差万別であるにもかかわらず、遺留分の算定にあたって個別事情は考慮されない(遺産分割では寄与分という制度で考慮される余地がありますが、遺留分では寄与分も考慮されない)、という問題もあります。このように、遺留分という制度の存在理由自体を問い直す必要があるのかもしれません。