コラム

医療的ケア児支援法施行1年半を迎えて

2023.02.20

執筆者 弁護士 朝倉 舞

 令和3年9月18日に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(本コラムでは「医療的ケア児支援法」といいます。)が施行されました。医療的ケア児とは、日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケア(人工呼吸器による呼吸管理、痰吸引その他の医療行為)を受けることが不可欠である児童を指します。本法律は、医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、それを支える家族の離職の防止に資すること、そして安心して子どもを産み、育てることができる社会の実現に寄与することを目的として、超党派の国会議員によってまとめられた法案をもとに、成立しました。

 背景には、医療技術の進歩に伴い医療的ケア児が増加しており、全国に約2万人(推定)とされているなかで、医療的ケア児とその家族を取り巻く問題が取り残されてきたことがあげられます。
 例えば、安心してお友達や先生と触れ合い、いろいろな体験ができる場があることは、その子の成長にとって大切なものです。しかし、地元の学校では対応できないと言われ、看護師が常駐する自宅から離れた支援学校に通うにも、送迎バスではケアができず乗車ができないと言われ、自力で通うのは困難、といった理由で毎日の通学をあきらめざるを得ない方がいます。
 また、昼夜問わない医療的ケアや預け先がないこと等から、その親(特に母親)が離職せざるを得ないということが当たり前のように生じています。
 貴重な就労資源を失うことは社会にとっても損失ですが、離職によりその親は収入源だけでなく、社会とのつながりが断たれてしまうことにもなり兼ねません。そのうえ、一人で24時間在宅介護を行うことは孤独と隣り合わせであり、介護者である親の身体的精神的な支援も不可欠です。

 すべての子どもが社会で育つための権利は、子どもの権利条約や障害者権利条約、憲法などでも認められてきた権利でありますが、行政による具体的な支援の動きは鈍く、各家庭が重い負担を余儀なくされている状態です。2016年の児童福祉法の改正により各省庁および地方自治体が医療的ケア児への支援の「努力義務」を負うことになりましたが、それだけでは不十分でした。本法律では、さらにそれを進め、国・地方公共団体には医療的ケア児及びその家族に対する支援に係る施策の実施の「責務」、保育所や学校設置者等には医療的ケア児への適切な支援の「責務」を課しており、停滞していた支援制度が進むことが期待されています。

 施行から1年半ほど経過した現在、例えば京都府では令和4年4月25日に医療的ケア児等支援センター「ことのわ」を開設し、相談窓口ができました。これまで既存制度を利用しようにも複雑かつ医療/福祉など様々な窓口に分かれており、情報収集や申請が非常に困難な状態でしたが、このような窓口によりスムーズな生活の改善につなげられることが期待されます。また京都市では、学校等での受け入れ体制の拡充や日常生活支援(通学支援等)のための施策等の取り組みが紹介されています。もっとも、当初想定された制度設計が、現実は利用までのハードルが高すぎて到底利用困難なために見直しが必要で、支援策の実走までに時間を要しているものがあったり、本法律では地域差をなくすことが定められているところ、学校の対応など、なお地域差は大きいものであるなど、まだ取り組みは始まったばかりといえそうです。
 
 動き出したとはいえ、深刻な問題を抱える当事者にとっては待ったなしの状況が続いています。様々な課題が着実かつ迅速に解消・改善されるような現実的な施策や対応が求められています。