夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定が憲法に違反するかどうかが争われた家事審判で、最高裁大法廷は、6月23日、2015年の判決に続き「合憲」と判断しました。これでしばらく旧姓の通称使用が代替策となる状況が続きますが、通称使用で解決できていない問題の一つが、婚姻前の氏名(旧姓)で役員登記ができないことです。
 私自身もこの問題の当事者ですので、皆様にわかりやすくご紹介したいと思います。

1 現在認められている役員氏名の表記

 株式会社等の取締役や監査役などの役員に就任すると、就任登記をしなければなりません。役員への責任追及等、利害関係人の権利行使を可能にするためです。
 改正商業登記規則により、2015年2月27日以降認められている役員氏名の表記は、①戸籍名のみ、②戸籍名に続いてカッコ書きで婚姻前の氏名を併記する方法の2つで、通称使用している婚姻前の氏名のみでは役員登記ができません。
 例えば、「京都和子」さんが結婚して「北海道和子」さんになった場合、①「北海道和子」、②「北海道和子(京都和子)」のいずれかでしか登記できません。

2 旧姓での登記が認められないことの問題点

 「氏名」の第一義的な機能は、同一性識別機能です。つまり、その「氏名」でもって、その人物が社会生活上特定できることが第ーです。「京都和子」を通称使用して活動している場合、①「北海道和子」という登記では、誰のことかわかりません。

 一方、②「北海道和子(京都和子)」だと誰のことかはわかりますが、別の問題が生じます。この表記は婚姻中にしかできませんので、併記することで京都和子さんが北海道さんと結婚していることが分かります。
 その上で、仮に離婚したとすれば、以下の2段目のように記載されます。氏の変更のあった令和3年2月3日というのは「離婚日」です。誰でも取得可能な商業登記で、こんな形で離婚の事実が公示されるなんてあんまりではないでしょうか。

 政府の旗振りもあり上場企業の女性役員数は着実に増えていますが、名だたる日本の大企業の商業登記において、女性役員のこうした「離婚登記」を見かけたことがあります。
 起業した場合は、その活動基盤である自らの会社の登記に、婚姻歴・離婚歴が記録されていくことにもなります。
 婚姻時に姓を変えさえしなければ、こんな理不尽な目に遷うことはありませんが、婚姻時に姓を変えるのは95%以上が女性です。女性活躍推進の観点からも、放置しておいてよい問題とは思えません。

3 問題解決に向けて

 そもそも登記に使用できる氏名が戸籍名に限られるという根拠は、法律上見当たりません。
 実際のところ、法人の種類によっては現在でも通称名で役員登記ができていますし、破産管財人名で行う不動産登記も弁護士の職務上の氏名(通称名)で裁判所が嘱託登記をしてくれます。

 また、外国人については、住民票や印鑑証明書に、本名だけではなく、通称名を併記でき、その記載をもって、古くから通称名のみでの役員登記や不動産登記が認められてきました。

 政府は、女性活躍加速のために、2019年11月5日から、住民票や印鑑証明書等に旧氏を併記できる制度を設けました。これにより、通称使用している旧姓が公証されるようになりました。だとすると、外国人と同様、通称名である婚姻前の氏名のみでの役員登記ができてよいはずです。

 そこで、私自身の弁護士法人の社員登記(注:役員登記の一種)をめぐり、旧氏の併記された印鑑証明書を添付して、旧姓のみでの役員登記に再チャレンジしてみたいと思います。ぜひご注目ください。

 

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